生薬の世界へ

肌への投資効率がいい漢方薬

化粧水への生薬の配合を考えると、西洋ハーブと和漢生薬の二通りに別れますが、美白やニキビへの効果、皮脂の酸化防止など一定の試験法でどの生薬がいいか比べた場合、和漢生薬は効いてなんぼの「医薬品」として流通しているせいか、優れた薬効成分を持つものが多いのです。特に肌の奥へ浸透して、効果を示す美白となると、オウゴン、ソウハクヒ、クジン、センプクカ、クマコケモモ・・・と圧倒的に和漢生薬の独断場となっています。

中国医学では、1500年前の唐の時代に大きく発展して、この時代の「千金要方」、「千金翼方」という医学書に、200近いクリーム、ローションなど美しさを保つための化粧品例が記載されています。すでに、この時代にしみ、そばかすに対する和漢生薬系美白剤、ケミカルピーリング剤なども収載され、いにしえの貴婦人達がいかに美に対する要求が厳しく、また和漢生薬は美を維持するにはなくてはならないものだったか、伺い知ることがきます。

現代の化粧品においても、ハイテク技術で創造された保湿剤と肌に効く有効成分としての和漢生薬という組み合わせが、市場の大半を占める現状をみれば、和漢生薬が古来より美しさを求める女性達の要求に答える、スキンケアには無視できない存在だということがわかります。

基本的に植物中の有効成分は産地や収穫時期によって違ってきます。医薬品である和漢生薬はそのため、たとえばウワウルシならアルブチンが7%以上等有効成分の規格が存在します。逆に言えば、こういう規格が存在するからこそ、安心して買い求めることができ、効果も期待できるのです。

和漢生薬化粧水の基本的な製造手順

生薬といってもそこら辺に生えてる草をそのまま使ってもいいのかという問題があります。それで、はずれを掴まないためにも医薬品の公定規格である日本薬局方の基準に適合した和漢生薬を漢方薬局で入手することが第一歩でしょう。つぎに、生薬から有効成分を抽出して、薬事法の化粧品原料として通用するエキス剤をつくり、そして、それらを組み合わせ配合することにより、自分の肌に合う化粧水の創造という3段階のステップを踏みます。

さて、どういった生薬を化粧水に配合するか

基本的な考えは漢方薬局で安価に手に入り、毎日の使用でも安全で薬効が確認されているものとなるでしょう。とはいっても、漢方薬として流通しているものは数多くあることから、市販化粧品に採用実績のあるものが基本になります。

また、配合量指定成分[※1]は論外で、化粧品は肌に塗るものであるため、経皮吸収で薬理効果を示すものを選別する必要があるでしょう。さらにはその中から水ーエタノールもしくは水ーBGで抽出するだけで、他の特別な有機溶媒を必要とせずとも有効成分が抽出できる生薬を使用することにします。まあ、世の中は便利なもので大手メーカーが研究データを数々の論文にまとめ、発表して下さっているので、その科学的評価を基にして、上記の条件にあう和漢生薬の選定をしていきたいと考えています。

※1 配合量指定成分

表示指定成分とは別で、安全な化粧品を作るために配合上限量を制限した成分があります。たとえば、パラベンの配合上限は1%以下ですが、生薬成分の なかには配合量を厳しく制限されたものもあります。ヒノキチオールは代表例で0.1%以下と厳しく規制されているので、個人が安易に配合するべきではない でしょう。また、肌に効く成分でも配合量を厳しく制限された代表例が女性ホルモンで、安価で肌に効果があるため大量に配合されたが、肌から吸収されやす く、配合量制限前は副作用として性器から出血する女性が相次いだという。

●ここで漢方薬と西洋薬との違い

西洋薬の基本は、だれにでもどんなところでつかっても一定の薬理効果が保証されないと薬と見なしません。そして、天然物から繰り返 し抽出を行うことで活性成分の探索を行い、強く特異的に効く薬がよい薬だと考えられています。一方、漢方薬は薬自体が半製品で、投与される生体の条件によ り異なり、体質とそれにあわせた漢方薬が一体になることで、初めて薬として作用します。

また、漢方薬は2000年の歴史から副作用の起こる組み合わせは排除されていて、もし、副作用のような症状が起こる場合は、薬が体質とあってないために、それは薬の副作用ではなく、単なる処方ミスだと考えます。

なお、生薬といっても数々の有効成分と余計な成分からなりたっていて、水に溶ける揮発性(蒸発する)成分、不揮発性成分、油溶性の揮発性成分、不揮発性成分に分けられます。そして、化学物質は似たもの同士によく溶けるという性質がありますから、水に溶けやすい薬効成分は水で抽出するのがベストですし、油に溶けやすい薬理成分は油で抽出してやるのがベストです。つまり、どうやって抽出するかで、有効成分の組成が変わり、それとともに発揮する薬理効果も違ってきます。製薬や化粧品での考え方はハーブや和漢生薬の数多くの成分から、強力な薬理効果を発揮する単一の成分を見つけだして、そしてその成分の化学的な性質から、どういう抽出法でその成分を生薬から多くの量を取り出せるのかを考えます。この観点からみた生薬からの成分抽出法を簡単にまとめると

●水蒸気蒸留

アロマセラピーや化粧品に香料として配合する場合に使われる抽出法
00℃~200℃に及ぶ高温の水蒸気を吹き込むことにより、揮発性の成分で特に水に溶けない油溶性の有効成分を集めるのに適しています。長所は水蒸気を吹き込むだけなので揮発性の有効成分のみを集めるのですが、熱で壊れるもの、不揮発性の有効成分は一切抽出されません。

●水抽出法

漢方で使われる抽出法
熱水、もしくは冷水で抽出を行います。漢方では生薬を沸騰するお湯で一時間ほど抽出を行い、それを飲むことで治療を行うようです。長所は水で抽出できる成分は簡易に抽出可能であるが、油溶性成分はほとんど抽出されないという欠点を持ってます。また、デンプンなど水に溶ける余計な成分がこの方法では抽出されてしまいます。

●水ー有機溶媒混合及び有機溶媒抽出法

化粧品に○○植物エキスとして配合する場合に使われる抽出法
薬事法では、西洋ハーブ、和漢生薬からのエキス抽出はたいてい水、エタノール、1.3-ブチレングリコールのいずれかもしくは混合溶媒での抽出を規定しています。これを受けて手作り化粧水では水とエタノールの混合液、つまりアルコール度40~50程度の焼酎やウオッカでの抽出を基本とします。こうすることで、水溶性、油溶性、揮発性、不揮発性問わず有効成分をまんべんなく抽出することができます。

また、生薬を水だけで抽出しようとすると、デンプンなど化粧品には水溶性の不適な成分が溶出してしまうので、そのためこれらを取り除くにはエタノール(エチルアルコール)を加えてやる必要があります。それから、化粧品に使われる植物抽出エキスはエタノール他、数々の有機溶媒を駆使して生薬からの有効成分を取り出している場合があります。

これは植物中の有効成分がそれぞれ別々の有機溶媒に溶けやすく他のものには溶けにくいいという性質を利用して、余計な成分を取り除いているのです。

たとえば、甘草に含まれるグラブリジンという強烈な美白成分は油溶性であり、数々の有機溶媒で精製を行った上で取り出せます。大手メーカーが採用しているカミツレの美白成分も同様にスクワランで抽出することにより有効成分を取り出すことが可能なのです。ですから、同じ生薬から抽出されていても、抽出する条件や溶媒で薬理作用の強弱が全然違うということが当たり前なのです。

有効成分の種類、配合量が多い≠効く化粧品

有効成分の配合量を多くすると、毛穴を塞いでニキビが発生したり、配合量が少ないときには無視できた副作用も出てくる場合があるので、配合量が多いほどいいものだとは考えるべきではないでしょう。また、有効成分の種類が多いものほど効くかと言えばそうではありません。

たとえば、西洋ハーブでも和漢生薬でも1つ1つは多彩な効果効能をもっているわけですが、数百種類の生薬を混ぜ合わせたものが”万病に効く”かと言えばそうではありません。生薬間の複雑な相互作用で薬効が消えたり、また好ましくない作用が出てきます。まあ、他種類の漢方薬を手作り化粧品に配合するのは経済的に不可なので、あまりできませんが、成分をあまり多くすると化粧水を使っているうちにある日突然沈殿がおこったりと色々好ましくない現象が起こるようです。

また、ある生薬同士を混ぜることにより、美白作用が増幅したりと興味深い現象が起こるようなので、生薬はなかなか奥深い世界です。

たとえば、オウレンに含まれるベルベリンという有効成分がそのいい例で、ベルベリン自体は抗生物質なみに、アクネ菌に対して殺菌作用をしめしますが、いくつかの生薬成分をまぜあわせると、生薬間の相互作用により急激に殺菌作用が低下してしまうことがわかっています。

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