和漢生薬の効能
ユキノシタとクジン
ユキノシタ(虎耳草)は意外と家の庭や野山に生えている薬草です。うちの家の庭でも日陰の部分に自生しています。
しかし、どこにでもある薬草の割に薬局で買うとローズマリーの2~3倍、カミツレの1~1.5倍もします。できれば田舎のおじいちゃん、親戚や花に詳しい友人等にとってきてもらって送ってもらいましょう。民間薬としてもつかわれており、やけど、虫さされ、かぶれ、腫れ物に草の絞り汁や塩でもんだ葉をつけます。化粧品原料としての他の生薬の追従を許さない効能にDNA修復効果というものがあります。
紫外線で壊された細胞のDNAを元に戻す効果なのですが、これは数ある生薬のうちでもユキノシタしかできない機能で、紫外線対策にはなくてはならない存在でしょう。また、コウジ酸より強い美白作用、生薬系トップグループに属する抗しわ作用、そして生薬系最強のデスモソーム分解酵素の活性を高める効能(くすみ防止)をもっています。
90年代半ばに一年で数百万本を売った大ヒット拭き取り型美白化粧品のメイン成分であることも記憶に新しいでしょう。美肌を維持するにはなくてはならない生薬成分で、こんな簡単に栽培できて、エキスも抽出しやすい効能バリバリの成分は他にないでしょう。
クジンはクララの根の部分で、炎症性疾患、掻痒症などに苦参湯として皮膚外用されてました。また、強い抗菌活性を持ち化粧品の防腐としても最適で、抗コメド効果をもつほか、美白、抗しわ作用を持っています。美白に関しては99/12にポーラが西洋、和漢生薬120種を探索した結果、メラニン色素を作り出す細胞を活性化するメラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)の作用を抑制するという知見を発表しています。従来のメラニン色素を作るチロシナーゼの生成やその働きを抑制する美白剤とは違う機構でアプローチするので、従来の美白剤が効きにくい人にも効果があるかもしれません。
また、抗しわ効果に関しては、97/3に資生堂が皮膚のはりや弾力を低下させる酵素「エラスターゼ」の活性を抑える成分として、西洋、和漢生薬150種の中から探索した結果、見出した抗老化成分と発表しています。クジンは使い方が難しい(他の生薬と沈殿を起こすので単独に使う必要がある)ので最初は使わずレベルが上がってからどうぞ。
売れている化粧品はそれだけリピーターが多く、美肌効果を実感している人が多いということから、これらの成分を手作り化粧品に是非配合されることをお勧めします。ちなみに私はユキノシタ(30%エタノール抽出)に抗コメド効果を感じました。
ユキノシタはじめじめしたところ育つ薬草で、手入れが簡易でありながらこれほどの効能を持つものは珍しいのでご自宅で栽培されることをお勧めします。草を根の上から切り取り、室内で日光に当たらないように日陰干しにして、乾燥させます。
美白希望で、皮脂分泌促進効果を期待するなら、日本産のトウキを指名買いしてください。中国産のトウキは美白効果がいまいちです。また、保湿に関しては、セラミドやヒアルロン酸の方が上なので、トウキでの保湿は軽い乾燥肌の人が適合しているのではないでしょうか。
ただ、化粧品の成分表示を見ればわかるように美白剤はビタミンC誘導体+○○、もしくはコウジ酸+○○というような組み合わせが多いようです。
1. 皮脂制御と保湿効果
皮脂分泌促進効果
保湿には、グリセリン、尿素、ヒアルロン酸のようにそのもの自体が吸湿性を持ち、肌に水分を与える方法や抗炎症剤のように微弱な皮膚炎を治癒して皮膚本来の保湿能を取り戻す方法やセラミドを増やしバリア能力をあげて保湿する方法(セラミド、ナイアシンアミド、ユーカリエキス)などがありますが、皮脂(トリグリセライド)を増やして保湿する方法もあります。
保湿にもっとも最適なのはトウキ(当帰)です。アトピーの漢方入浴療法では、この生薬を使用したところ、7割の患者に対して効果があったという報告もあります。ただし、ニキビ肌の人にとっては皮脂の分泌を増やしてしまうのですから、避けた方が懸命でしょう。#保湿にはトウキよりベタインの配合の方が効果があることがわかりました(2001.11追記)
皮脂分泌減少効果
シャクヤク(芍薬)、オウレン(黄連)、オウバク(黄檗)には、皮脂の分泌を低下させる機能があります。また、オウレンの有効成分のベルベリンはアクネ菌に対して抗生物質並の抗菌力を持っていますが、残念なことにほとんど経皮吸収されません。なお、オウレン、オウバクは他の生薬と沈殿をおこすので、単独で使わないといけません。
2. 美白効果
美白効果を持つ和漢生薬は大量に存在し、その中で経済的で効果が高いお勧めなのがウワウルシ(クマコケモモ)です。ウワウルシは7~10%のアルブチンを含有し、また抗炎症剤としてヘアダイでかぶれたときに民間薬として用いられています。さらに、アルブチンが1つの作用で美白効果を発揮するのに対して、ウワウルシ抽出物は2つの作用で美白効果を効果を発揮します。
また、ソウハクヒの美白活性はコウジ酸より少し高くなり、トウキ、クジンなどに比べて半分以下の量で同程度の美白力を示します。なお、生薬系ではカンゾウ(甘草)に含まれるグラブリジンが最強の美白力を誇っていますが、なかなか個人では経済的に抽出を行うことは難しいようです。
この他、色々あるのですが、コウジ酸と同レベルの美白力を持つものは、トウキ、クジン(苦参)、ボタンピ(牡丹皮)等があります。ただ、これはあくまで試験管内での評価で、ヒトでの評価とはまた別になるでしょう。
なお、試験管内で優れた美白効果を示しても、なかなかヒトでの実績になると生薬系美白剤はまだもう一歩という評価があるのか、化粧品会社への美白剤市場ではコウジ酸、アルブチン、ビタミンCリン酸エステルの3種が市場の大半を占めています。とくに、色々な雑誌で取り上げられているように美容外科、美容皮膚科でのしみとりはビタミンCリン酸エステルでの独断場となっているようです。
3. 抗炎症効果
抗炎症効果は和漢生薬ならシコン(紫根)、トウキ、カンゾウ、ウルウワシ、オウゴン、西洋ハーブのセージ、ローズマリー、カミツレなどが代表です。特に、カンゾウとカミツレの有効成分は皮膚外用剤や目薬等の医薬品に必ずといって使われているほど、薬理効果が高いものです。また、これらの2大成分に並んで薬理効果が期待されるのがボタンピ(牡丹皮)です。皮膚に微弱な炎症があると乾燥肌となる場合があるので、化粧品に抗炎症効果のあるものを配合されることが多いです。ただ、一言に抗炎症といっても数々の機構があって、皮膚で実際に起きている皮膚炎の原因と生薬の作用機構がマッチしていなければ、あまり効果はありません。
4. 抗酸化
活性酸素は諸悪の根元と言われていて、抗酸化が老化防止やしわ予防のキーワードなっています。それで、活性酸素を消去する抗酸化力が高いものはセージやローズマリーのエタノール抽出物などが有名ですが、和漢生薬でSOD活性が高いものは地黄、オウゴンなどがあります。 ただ、一言で活性酸素といっても、4種類あり、それぞれに生薬抽出物が効くかといえばそういうわけではありません。
生薬成分にもそれぞれ、得手不得手があるのです。それで、活性酸素の中で最近注目されているものに過酸化水素があって、これは紫外線を照射したときに産出され、すぐに消える他の活性酸素と違って寿命が長く、また、過酸化水素を分解する酵素をあらかじめ存在させておいて皮膚細胞に紫外線を当てるとしわができにくくなることから、しわの原因に関与しているのでは・・と考えられています。もちろん、人間の皮膚には過酸化水素を分解する酵素で、酸化防御していますが、年齢が高くなるに従って、酸化防御力が落ちていくようです。で、長くなりましたが、この過酸化水素を特に効率よく消去するのが、ボタンピです。
5. 抗アクネ
抗アクネと言っても、殺菌、皮脂制御、角層機能向上他、いろんなアプローチがあります。肌を地面にたとえると、皮脂はところどころ空いている穴からたえずわき出している状態でしょうか。ニキビというのはご存じの通り、その穴の出口の角質細胞がなんらかの原因で、異常増殖して塞がることでおこるのが、一因となっています。それで、その穴に溜まっている皮脂を絶えず流れるようにするには、出口の角質細胞の異常増殖を防ぐ成分が効果的であると言われてます。特にユキノシタに抗コメド効果があるとの報告があいついでいるので、ユキノシタを中心に考えればよいでしょう。
6. 肌荒れ防止
肌荒れ防止には色々なアプローチがあり、抗炎症剤や、角質細胞の増殖スピードを早め小さな傷を早く治す創傷治癒効果でアプローチするものなどがあります。よく使われるのが、オウゴン、カンゾウやヨクイニン(ハトムギの殻を除いたもの)があります。
そして、創傷治癒効果の見地からみて、角質細胞の増殖度をあげるのは、オウギ(黄耆)、タンジン(丹参)>コウカ(紅花)>センキュウ(川きゅう)・ニンジン(人参)・トウニン(桃仁)
逆に、増殖を阻害するよろしくない生薬は、カンキョウ(乾姜)<カシュウ(何首烏)
ヒト表皮角化細胞増殖に対する効果・和漢医薬学雑誌426-427、1998
7. しわ防止
プリプリの弾力のある美肌を維持するには、肌のはりを支えているエラスチンとコラーゲンの盛んな合成とエラスチンの分解阻止が必要になります。そのため、コラーゲンの合成促進にはビタミンA酸、アスコルビン酸リン酸マグネシウムが、エラスチン破壊酵素であるエラスターゼの活性を低下に、特にクジン、ユキノシタ、そしてシャクヤク、ボタンピ、西洋ハーブならセージ、ローズマリーが効果があります。
90年代後半に、大手メーカーから、有機系紫外線吸収剤、酸化チタン、酸化亜鉛等の無機系紫外線錯乱剤では、UVAによる光老化反応を完全に抑えられないという動物実験による知見が発表され、反響を呼びました。これは、紫外線吸収剤をすり抜けたUVAが真皮を直撃し、これによって多核白血球からエラスチン破壊酵素が放出され、これが紫外線によるしわやたるみの原因になっているとわかったからです。この知見により肌の奥で効果を発揮する生薬系紫外線防御剤の登場が始まりました、黄杞、クジン、ユキノシタがその代表例です。