イオン導入について

近頃、イオン導入器を使ったケアが流行り始めました。イオン導入なんかあやしい・・と思っていましたが、オフ会でイオン導入を実施したところ意外に評判がよかったのでショックでした・・(^^;;その効果に興味を持ち、ちょっと調べてみたので、しんちゃん流に解説したいと思います。

#当初、広島県立大でのビューリがよいという実験結果は、マイナスでの導入だと思っていたのですが、論文をみると実は交流モードでの導入結果でした。そのため、若干記事の訂正を行っています。
<2002.2.26>

イオン導入とは

イオン導入とはイオントフォレーシスともいい、皮膚に微弱な電流を流すことで、水溶性の薬物を皮膚内に効果的に導入する方法です。マイナスの電極を顔の皮膚にあて、プラスの電極を手に持って電流を流すと、水に溶けるとマイナスに帯電するイオン(ビタミンC誘導体など)が、皮膚に当てたマイナスの電極からの反発力によって顔の皮膚の奥へと浸透していきます。なお、浸透できるのは主に小さな分子量のものだけで、コラーゲンやヒアルロン酸等巨大分子は肌の中へ入る事はできません。

イオン導入法が開発された背景

イオン導入法は注射器を使わずに体内に薬物を入れるというメリットがあるため、患者の負担を大きく減らせ、近年多くの研究がなされています。

美容目的のビタミンC誘導体のイオン導入が有名ですが、抗潰瘍剤、不整脈治療剤、糖尿病治療剤、鎮静剤等あらゆる分野の薬物のイオン導入の可能性について地道な研究がされています。アメリカではこうした研究が実り、FDAの認可を受けたイオン導入器が販売されています。

現在、イオン導入器が最も使われているのはピロカルピン塩類をイオン導入で投与することによる膿胞性線維症を診断することで、また歯科においても局所麻酔薬リドカインのイオン導入が実用化されています。この技術のおかげで注射器に恐怖心をもつ子供でも、注射器を使わずに局所麻酔が可能となっています。

ビタミンC誘導体に関しては、イオン導入すれば普通に塗布するに比べて何倍ものビタミンCを導入することが可能であるとの知見が2001年の日本香粧品科学会で広島県立大学から報告がありました。

イオン導入器の問題点

イオン導入器の問題点としては、電流を皮膚に流すためそれによる刺激がまず第一に挙げられます。また、長時間イオン導入を行うと水の電気分解が起こるため、たとえばマイナスの電極側では強アルカリ性に変化する(電極を同じ個所に長時間当てつづけた場合)という危険性もでてきます。そのため、現在では短い時間で導入できる薬物の研究が中心となって行われています。

イオン導入器の種類

イオン導入器は流す電流の種類によって大きく4つに分けられます。

1.連続直流型

最初に開発されたのがこの形でFDAが認可したイオン導入器がこれに当たります。ただ、この形式では皮膚の分極が起こりそのため皮膚刺激や火傷するという欠点が指摘されています。

2.パルス直流型

直流型電源装置でイオン導入すると皮膚刺激や火傷といった欠点がおき、皮膚の分極を抑制するために開発されたのがこの形式です。皮膚というのはコンデンサーとしての性質があるため、電圧をかけると電荷が貯まりすぎて、薬物の通過を妨げてしまいます。これを防ぐために一定時間電流を流しては止めて貯まった電流を放電し、そしてまた断続的に電気を流すというのがパルス直流型となります。こうすることで電気が流れやすくなり薬物が導入されやすくなるといわれます。

3.パルス脱分極直流型

皮膚での分極による電気効率の低下をさらに抑える為に、積極的に脱分極させることで、皮膚刺激を抑制するのがこの形式です。また、上記2つの形式に比べて皮膚刺激が少ないので、さらに多くの電流が流せる(電流を多く流せる事により薬物を多く皮膚へ導入できる)というメリットがあります。(ただし、電流が多く流れるという事は水の電気分解も促進されるということに留意しなければならない)

4.交流型

プラスとマイナスの電流を交互に流す。肌への刺激が少ないのが特徴。

まとめ

連続直流型がよいかそれともパルス型もしくは交流型がよいかはイオン導入する薬物によりますが、ビタミンC誘導体は広島県立大学の研究で交流型の方がよいという結果が出たようです。パルス脱分極直流型は分子量の大きな(3400)なものの経皮吸収促進作用が認められ、今後の発展に期待されている形式です。しかしながら、ビタミンC誘導体に関しては、電流が強いと酸化される割合が増えるので、パルス脱分極型を使って電流を多く流しても意味はないでしょう。また、パルス直流型の高価なイオン導入機は電流量を自由に変えれますが、同じ理由で不用でしょう。ちなみに、パルス直流型といってもパルスの周波数により、導入される量が違ってくるということがわかっています。今後はビタミンC誘導体の導入に関してはパルス直流型や交流型でその最適な波形をさらに研究されていくのだと推察されます。また、イオン導入をする前にはしっかりと洗顔料を使って洗顔し、傷のある部分には電極を近づけない(傷の部分は電流が流れやすくその分皮膚が損傷しやすい)といった注意が必要でしょう。

しみ治療なら皮膚科でのレーザー治療とコストを天秤にかけながら考えた方がよいでしょう。また、イオン導入機が高いのでお金に余裕があるとか、エステのイオン導入を受けようと考えている方に向いていると思っています。また、色々調べましたが、エステの業務用イオン導入器も家庭用のものもたいして性能は変わらないでしょう。

イオン導入は週1~2回、1度やったら3日間をあけるというやり方で行ってください。毎日やれば効果がそれだけ効果が上がりそうに思えますが、イオン導入時をすると肌を多少痛めることになるので、連続使用は逆効果になってしまいます。また、しみの部分に集中的にイオン導入器を当てるというのもよくないので、イオン導入時には万遍なく顔全体にあてるようにしてください。やりすぎは禁物で

もうちょっと詳しくイオン導入

薬物の経皮吸収とイオン導入での経皮吸収は下記の式に表されます。

薬物の単位面積当たりの皮膚透過速度dQ/dtは次式で表され、

ここで、Kは薬物の皮膚/基剤分配係数、CvとAvは基剤中の薬物濃度と活量、Dsとγsは皮膚中薬物の拡散係数と活量係数、Lsは皮膚バリアーの厚さとなります。

これに対してイオン導入による薬物の皮膚透過性はNernst-Planckの式で示され、

となります。

ここで、dQ/dtは薬物の単位面積当たりの皮膚透過速度、Kは薬物の皮膚/基剤分配係数、Cvは基剤中の薬物濃度、Dsは皮膚中薬物の拡散係数、Lsは皮膚バリアーの厚さ、zはイオンの電荷、Fはファラデー定数、Rはガス定数、Tは絶対温度、Δψは膜を介した電位差です。
この式はイオン導入の理論を表し、電荷を有する薬物は皮膚表面と体内に電位差を与えることにより吸収の駆動率が高める事が可能となります。なお、イオン導入時は角質層自体は高い電気抵抗性を示すので、汗腺などの付属器官に電流が流れ、薬物もこの付属器官を通って皮膚内へ導入されると考えられています。Kenji S,FJ,4.17.1996より改変

イオン導入については数多くの研究があり、Chien Y.,J.Pharm.Sci.,78.353.1989,Tyle P.,Pharm.Res.,3.318.1986,Chien Y.J.Control.Rel.,13.263.1990,Burnet R.,J.Pharm.Sci.,76.765.1987、パルス型イオン導入の最適条件について研究した摺出寺,薬学雑誌,109.771.1989等他、数多くのイオン導入器の特許が出願されています。
ビタミンC及びVC誘導体についての報告は少なく、古くはビタミンCのイオン導入でのしみ治療について検討した高瀬、日皮会誌、72.554.1962、そして鈴木.日美外報20(2).8.1998ぐらいが学術誌に報告している程度です。学会発表については徳島大学が美容機器メーカーとの共同研究でビタミンCのマウス皮膚へのイオン導入について生理学会(01年)で発表していますが、皮膚内に導入されたビタミンC濃度だけ測定し、ビタミンCの酸化体であるデヒドロアスコルビン酸の濃度については測定していないなど不満が残ります(単に導入できたというだけで、イオン導入の最適条件がよくわからない)。

皮膚学会(01年)でもビタミンCのイオン導入について報告があり、肝斑に悩む10名にイオン導入を週2回合計10回行ったところしみが薄くなったとのこと。また、香粧品科学会(01年)では広島県立大学からヒト摘出皮膚組織で検討したところ、単純に塗るよりもイオン導入したほうが多く入るという発表がありました。ただ、電流が多ければその分多く導入できるが、導入されたものは酸化される割合が多くなるとの知見も併せて報告され、まだまだイオン導入の最適条件の模索が必要のようです。
(つまり、電流が強いと皮膚組織内で多量のビタミンCが酸化されてしまう環境下になるため、肌に良いつもりでやったはずが逆にダメージを与えていることを示唆しています。)

なお、ビタミンC誘導体のイオン導入器を販売する電機メーカーや化粧品会社は数多く存在するのに、メーカー側からはどの周波数でどの程度の電流を流せばどのくらいのビタミンCが皮膚内に入るかという基礎的なデーターが公の場でほとんど発表されていません。大事な基礎研究より、美容や健康雑誌への宣伝にお金をかける姿勢には私だけでなく疑問をもつ方は多いと思いますが・・。(ビューリについて広島県立大学から発表あり、塗るのに比べて表皮で1.9~4倍、真皮で2~2.7倍で、イオン導入した部分の皮膚は一般的な血液中の濃度の4百~6百倍になった。)2001.9.14日刊工業新聞記事より

イオン導入についての学会発表(予稿集からの抜粋)

◆第100回皮膚学会
(東邦大、アスコルビン酸のイオン導入法による経皮浸透度及び臨床効果の研究)

アスコルビン酸のイオン導入法による経皮浸透度を検討する目的で、ラット背側皮膚上からアスコルビン酸をイオン導入し、微小透析法を用いて内細胞外遊離アスコルビン酸濃度を測定したところ、イオン導入時に2.4倍増、その後もしばらく高濃度を示した。その際、作用導子が陰極であることの重要性、皮内の深さによって浸透度がことなるなど、アスコルビン酸のイオン導入時の基礎データを得た。その結果をもとに30~48歳の肝斑女性患者10名を対象に週二回合計10回、一重盲険ハーフサイド法でイオン導入したところ、イオン導入前後の色差計による色差価はアスコルビン酸導入部は対象群(精製水使用)と比較して有意に減少し、アスコルビン酸のイオン導入は肝斑治療に有用であることが示唆された。2002年生理学会での発表では、アスコルビン酸から、ビタミンC誘導体での検討に変わっています。
(5%ピュアVCでイオン導入できるという結果であるが、家庭でするならVC誘導体で行うのが望ましい)

◆第26回香粧品学会
(広島県立大学、イオンフォトレーシスによるプロビタミンCのヒト皮膚摘出片への浸透促進効果)

イオンフォトレーシスは低分子イオンを皮膚深部に浸透させる効果が期待されるが、一般には画期的な効果に至らず、浸透機序も解明されていない。演者らは多量のビタミンCを皮膚深部にまで到達させるために酸化分解しにくく持続的にビタミンCに変換されるプロビタミンCを用い、イオンフォトレーシスによって外用塗布よりも皮膚浸透率を向上させようと目指し、健常ヒト皮膚の摘出組織片にプロビタミンCのアスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩(APM)や同ナトリウム塩(APS)存在下イオンフォトレーシス(0.1~1.0mA)施行した。その結果、表皮でも真皮でもイオンフォトレーシス施行により組織中のアスコルビン酸濃度が外用塗布よりも増大した。しかし、電流によりデヒドロアスコルビン酸への酸化を促進するという側面もあることから、総合的な最適条件を決定すべきと思われた。

市販イオン導入器と著名な皮膚科医との関

ちょっと調べてみました・・・

イオン導入機
ビューリ
アクアパフ
ビタリオンⅡ
メーカー
ビューリ
東芝医療用品
インディバ・ジャパン
開発協力者
広島県立大三羽先生
鈴木形成外科鈴木先生
代官山皮膚科
伊藤先生
鈴木形成外科
鈴木先生
学会等の発表
学会発表、論文あり
論文あり
論文あり
しんちゃん的
コメント
ビタミンC誘導体研究の第一人者である三羽先生が開発に絡んでいる。
3万2千円と高いが、その価格に見合った基礎データ(分子生物学的手法による)とクリニックでの臨床データ等を揃えている。
(プラスのみ、マイナスのみ、交流での導入モードを備える)
とにかく安いのがよいなら、
これかも。1万9千円。
高い。
ビューリーを勧める。
基礎研究に関する報告なし。

他に化粧品会社や美容機器メーカーもイオン導入機を発売していますが、宣伝ばかりでどの程度の効果があるかはっきりした発表はなし。もともと、ビタミンC誘導体の経皮吸収等の基礎研究はとても難しくほんの一部の大学と大手メーカーにしかできないので、美容機器メーカー等に期待するのは間違いなのかもしれません。ただ、広告には学会であたかも発表したようにみせかけているため、なんというかあのしたたかさには驚いてしまいますが。上記の3機種は交流型とパルス直流型ですが、それぞれのパルスの波形が異なっています。パルス波形によりイオン導入での効果が違うとの広島県立大からの指摘もあり、3機種それぞれイオン導入の効果は違うと考えた方がよいでしょう。なお、ビューリー2とビューリーデラックスが売られていますが、データがあるのはビューリー2の方です。

#イオン導入機の販売文句にシートパックより100倍入るというものがあります。これは、培養皮膚を使った試験管内での話であり、実際の人肌に導入して100倍入るわけではありませんので、過度の期待を持たないようにご注意ください。

手作りイオン導入器について

日経ヘルス2002年2月号に手作りイオン導入機の記事が掲載されました。市販のイオン導入機は高いが試してみたいという方にはお勧めです。初期型の直流型と同じものなのですが、注意点として3分以上使わないようにしてください。

手作りイオン導入の記事

イオン導入器についての論文

結論から言うとビューリがT社やI社のものに比べて真皮へのVC浸透力が2.0~2.7と出ています。本文中のイオン導入Bはビューリ、Tは東芝、Iはインディバのことでしょう。東芝は自分のところで、VCの導入量が測れないのでここに委託したわけですが、ビューリが一番という結果です。また、ページ4の図8をみると、角層が厚い場合、イオン導入機を使っても外用塗布でも同じ程度の量しか入っていないようです。

イオン導入を行う前にはユキノシタ等角層ケアの生薬で十分ケアした後、イオン導入をした方がよいでしょう。なお、論文は専門的なので、ページ3と4だけ読まれたらよいです。内容は上記の新聞記事の詳細版だと考えてください。

タイトル ページ1 ページ2 ページ3 ページ4 ページ5

 

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