石鹸屋と化粧品屋の石鹸の違い
● 一体なんだと思いますか(笑)?
石鹸を作るには油脂から作る方法と脂肪酸から作る方法の2種類あります。
油脂から作る方法は数日かかりますが、脂肪酸から作る方法は1日で済みます。
今は環境の時代なので、数日も重油を使って、石鹸を焚くというのは欧州では批判のまとになります。日本では丁寧さが売り物になりますが、資源を節約するという考えとは逆行しています。
*重油をなぜ使うのかというと、重油燃やして、水を水蒸気に変えて、数百度の水蒸気を使って石鹸製造釜を温めます。
さて、純石鹸というのがありますが、これには石鹸職人の考えが現れているものと思います。
いずれの純石鹸も石鹸分が100%近いことを売り物にしています。
色も真っ白ではなくて、くすみが少しある白さです。
成分を見ても石鹸素地100%のものが当たり前の世界です。
一方、化粧品屋が作る石鹸というのは、いわゆる冴えのある白さです。表示を見ると石鹸素地の他に、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パーム油脂肪酸などに代表されるような脂肪酸に加えて、酸化チタン、グリセリン、PEGなど色々配合されています。
手作り石鹸を作られた方ならお分かりになるかと思いますが、石鹸というのは真っ白にはなりません。なんとなくすこしくすみがあるような白さです。化粧石鹸の白さというのは、酸化チタンによるもので、酸化チタンの粒子が光を跳ね返すことで我々の眼には白く映るわけです。ちなみに酸化チタンは日焼け止めに配合されるものより粒子が大きいもので、1%程度配合されます。
それで石鹸屋の石鹸と化粧品屋の石鹸の違いというのは、外観だけではなくて、泡に現れます。
化粧品屋の石鹸というのは純石鹸分100%にこだわりません。むしろ95%とか90%です。
通常はスーパーファットタイプ(過脂石鹸)と言われて、ラウリン酸やミリスチン酸などの脂肪酸が加えられているのが、大きな特徴です。
どうして水に溶けない脂肪酸を石鹸に加えるのか?
泡立ちがよいのは純石鹸分が多いほどよいのではないかと思われがちですが、実はそうではありません。
女性の好む泡というのは、泡が細かく均一の大きさで、少し粘りがあり弾力性があり、一度泡立たせればすぐに消えないクリーミーな泡でしょう。
それではそういう泡にするには、どうすればいいかとなるのですが、特に洗顔料になると泡立ちや泡質のよいミリスチン酸が主体となります。そして次にラウリン酸やパルミチン酸となります。
パルミチン酸やステアリン酸は特にクリーミーな泡となりやすいのですが、残念なことに冷水などには溶けないため、多く配合することが難しく、できた石鹸も硬くなりがちです。
泡立ち |
刺激性 |
石鹸の硬さ |
|
---|---|---|---|
ラウリン酸 | ○ | × | 柔らかい |
ミリスチン酸 | ◎ | △ | 少し柔らかい |
パルミチン酸 | △ | ○ | 硬い |
オレイン酸 | ○ | ○ | 柔らかい |
ステアリン酸 | △ | ○ | 硬い |
固形石鹸なら固まっていればよいので、オレイン酸から作ったソーダ石鹸もなんとか固形を保っています。
ただ、洗顔料などのチューブに入れる場合は40℃くらいで液体になっては困ります。
かといって硬すぎてもチューブから出にくいので、50℃くらいでは液体でそれ以下では固まるように脂肪酸組成を考えます。通常はミリスチン酸を主体としてパルミチン酸とステアリン酸を加えて、ちょうどチューブからでるように適度な硬さに調整します。これが液体の石鹸になるとラウリン酸とミリスチン酸を主体に作らないと、液体になりません。また、グリセリンを加えることで、石鹸だけよりも液体になりやすくなります。
そして、泡立ちの粘りや弾力性ですが、脂肪酸を組み合わせただけの石鹸では限界がきます。
そこで使うのが、ただの脂肪酸でこれを5%加えるだけで、石鹸の泡に粘りがでて、ソフト感がでて、一度泡立つと石鹸だけのときより泡の持続性がでます。
また、泡も明らかに細かくなります。
各脂肪酸を5%石鹸に添加したときの泡の粒子径の変化です。
数字が大きいほど泡が小さくなります。
特にラウリン酸とステアリン酸で泡の粒子が小さくなる効果が高くなります。
泡が小さいとクリーミーな感じで、泡持ちも良くなります。
各脂肪酸を5%石鹸に添加したときの泡の弾力性の変化です。
数字が大きいほど泡に弾力があります。
パルミチン酸以外はどの脂肪酸を添加しても泡の弾力があがっています。
つまり手で泡を押しつぶそうとしても弾力のあるクッションのような泡に近づきます。
なお、脂肪酸を添加することで石鹸のpHを落ちて肌あたりも良くなります。
手作り石鹸の遊離アルカリで手作り石鹸がスーパーファット型になっていることを確認しましたが、知らず知らずのうちに化粧品屋がつくる石鹸に近いというのは面白いことです。
ところでどうして脂肪酸添加により泡質が変わるかというと、脂肪酸は水に溶けませんが、一応界面活性物質の1つで、石鹸と石鹸の分子の間に脂肪酸の分子が入り込むことで、石鹸の分子の集合体を変化させるからです。他にも石鹸の泡を変化させるものもありますが、一番安くて肌あたりもよくなり、性能も変化させやすいものは脂肪酸になるため広く使われています。
逆によい洗顔料や石鹸は泡立ちを見ればどこまで技術者が苦労を重ねたかよくわかります。
石鹸や洗顔料の泡を安いものと高いものと比べて、たとえば値段が安いものより泡の腰が悪くて、スカスカで、しかも泡が大きいなら単に値段が高いだけで、ぼったくりの商品に過ぎません。
よい商品は泡に特徴があるので、注意深く泡を見たり、泡を押しつぶして弾力をみたりしてみてください。