生薬の美白力について(抽出エキスの生化学的作用)
生薬化粧水の生化学的作用を調査するために、美白作用の1つチロシナーゼ阻害作用について検討しました。
1%や5%で検討しているのは薄い濃度でも十分に効果を発揮するからです。
濃度が高ければ効果が高くなるとは考えずに原液で使いたいのを我慢して薄めて使ってください。
チロシナーゼとは、アミノ酸であるチロシンを酸化して、メラニンを作る酵素で、この酵素を阻害することにより、メラニンの生成をくいとめ美白効果が発現します。
基本的に、美白は、
- メラニン製造工場である色素細胞にメラニン製造の指令を行う物質を阻害する
- アミノ酸を酸化してメラニンを作る酵素であるチロシナーゼの活性を弱める
- メラニンの元になる酸化されたアミノ酸と反応してメラニン化をふせぐ
- 直接メラニンの黒色を還元漂白して薄色化して目立たなくする
大まかに上記4つの効果をもつ成分を組み合わせることにより美白効果を発揮します。
古くからあるアルブチンは主に2の効果、コウジ酸は2と3の効果、ビタミンC誘導体は2と3と4の効果、エラグ酸は2の効果で美白力を発揮します。
最近は、チロシナーゼを阻害するだけでなく、メラニンの製造指令を出す物質を阻害することを取り入れることにより美白効果を強めた美白剤(カモミラET、クジンエキス)が大手化粧品メーカーのトレンドとなりつつあります。
さて、チロシナーゼを阻害効果を測定するのには、1.チロシナーゼとチロシンと美白剤を直接作用させてメラニン中間体の生成度を測定する方法と、2.美白剤とチロシンを培地に加え色素細胞を培養しながら直接メラニンの生成度を測定する方法があります。2の方法では、美白剤が色素細胞内へ取り込まれてちゃんと美白機構が働き、メラニンそのものを生成を抑えるか確認します。
1の方法で結果がよくても、2の方法で測定すれば、結果が悪くなったり、またその逆もあります。たとえば、ビタミンC誘導体はチロシナーゼ阻害作用は弱いですが(VCH-100で0.1%で25%の阻害)、2の方法だと細胞内でメラニンの漂白還元作用が働くので、メラニン生成を強く抑制します。(VCH-100で0.2%でメラニンを86%生成阻害)
また、試験管内での結果がいくらよくてもその成分が肌から入るつまり、経皮吸収されるとは限りません。なお、よくコウジ酸の何倍とか、アルブチンの何倍とか宣伝がありますが、それはこの試験管内でのテストでの結果です。ただし、広告はあくまで広告なので、たとえば、アルブチンの10倍なら他社のアルブチン製剤の10分の1の時間で効くとかそういうことはありません。
黒人の肌と白人の肌はメラニンを作る色素細胞の数は同じですが、色素細胞内のチロシナーゼ活性が3倍違うだけといわれます。つまり、本当に美白剤の宣伝どおりにチロシナーゼの活性を阻害するなら、黒人は白人の肌になれなくても日本人の肌色になれるわけです。
しかしながらそのような美白化粧品がないように、肌の中というのは複雑なので、そう簡単に思い通り美白剤が働いてくれるわけではありません。
また、どんなに強い美白剤でも、効果がでてメラニン量を減らし美白するより、紫外線に当たって出来るメラニンの方が多いので、日焼け止めを併用しないと効果がありません。
さて、前置きが長くなりましたが、生薬エキスのチロシナーゼ阻害試験の結果です。
基本的に化粧品メーカーはチロシナーゼ阻害度を指標にして、活性成分が多いエキスの抽出条件を模索していきます。また、同じ生薬でも産地によって違うので、産地違いも調べていきます。
今回は手始めに、ネットで入手した生薬とメーカー製生薬エキスを比べてみました。
自作エキスの製法はガイドラインに沿って行いました。出来上がったエキスをそのまま使い、
エキス濃度の調製は行っておりません。抽出は50%BGです。
使用した生薬は、ユキノシタ、ソウハクヒ、ウワウルシ、ボタンピは一光堂漢方薬局さんから、
クジンは温心堂薬局さんから購入しました。
測定は、各抽出エキスを精製水で1%、5%に薄めた溶液で測定しました。
生薬の種類 | 各エキス1%溶液 チロシナーゼ阻害度 |
各エキス5%溶液 チロシナーゼ阻害度 |
---|---|---|
自作ユキノシタBGエキス | 1%以下 | 27% |
A社製ユキノシタ | 2.6% | 19% |
B社製ユキノシタBGエキス | 6.1% | 未測定 |
自作ソウハクヒBGエキス | 8.1% | 45% |
A社製ソウハクヒBGエキス | 76% | 未測定 |
自作クジンBGエキス | 30% | 78% |
自作ボタンピBGエキス | 9.7% | 36% |
自作ウワウルシBGエキス | 28% | 68% |
クジンは予想通り非常に高いチロシナーゼ阻害度を示しました。アルブチンを含むウワウルシもよいですね。
A社のソウハクヒエキスは業界随一だけあって、さすがです。自作エキスと10倍ぐらい差がありますが、これはソウハクヒの産地が違うため、美白成分の濃度が違うためです。
また、自作エキスは濃縮など行っていませんが、原料メーカー製のものはエキスの濃縮など、製造時に濃度調製を行っているので差がでて当たり前です。
ユキノシタは意外と成績が悪かったです。ただ、原料メーカー製のものと大差はなかったので、その点では安心しています。ユキノシタを5%程度配合するだけで、美白効果を感じる方が多いことから、チロシナーゼ阻害度を気にして高濃度に配合すればよいというわけではありません。
(高濃度の場合は刺激を感じるようになるので長くは使えません)
なお、この測定結果はあくまで一例ですので、皆さんが抽出されたエキスがこのぐらいになることは保証していません。エタノールエキスで抽出された方はさらにこの結果より1割程度よい数値になっていることも考えられます。(抽出効率がよいので)また、この結果から自作エキスが原料メーカーのものより優れているとは言えません。
今後の課題としては、生薬は産地によって価格が違う(国内でも大和産と新潟産では違う)ということもありますので、産地違いや抽出条件の違いについても検討する予定です。
また、プラセンタなど市販のものについても検討していきます。
プラセンタは植物プラセンタが出ていることからわかりますように、植物エキスの方が結果がよいので、使う理由がなくなり化粧品に配合されにくくなっています。
また、チロシナーゼ阻害率だけで美白化粧品を語ることはできず、大手メーカーの美白化粧品が大抵ビタミンC誘導体との組み合わせで製品化したり、特許を取得している状況を鑑みると、本気で美白を行いたい方にはビタミンC誘導体を併用されることをお勧めします。
(チロシナーゼ活性阻害型は美白効果がでるのに最低1ヶ月かかるため)
#生薬エキスの種類によってはビタミンC誘導体と同時に配合すると着色するものがあります。 着色すると酸化されやすいので、同時に配合する場合は着色しないものを選んでください。 できれば生薬化粧水とビタミンC誘導体の化粧水を別々に作られることをお勧めします。
クジンは他の成分と相性が悪いので、単独で使う必要がありますが、他の生薬は2,3種類組み合わせて使うことができます。ただし、たくさん成分の成分がいれたからといって、効果があがるわけではなくて、肌に合わない確立も上がります。
たとえば、化粧品の特許は、成分の組み合わせでとるわけですが、たいてい、2、3種類の組み合わせです。そうでないと特許は取れません。営業の人間は化粧品にたくさん成分が入っていることを強調しがちですが、大手メーカーのトップ技術者達は少ない種類で肌に効かせようとしますし、その姿勢は特許を見れば、一目瞭然です。
たくさんの種類をいれたからとか高濃度だから効くというのは、あくまで素人考えですので、できるだけ薄い濃度で少ない種類で化粧水を作るようにしてください。
生薬エキスのチロシナーゼ阻害度を測定するということは、生薬化粧水自体の価値を上げるために行うものなので、ただの民間業者ではなく、中立の試験機関に依頼しました。試験報告書はデータ集をみてください。
アンケートで美白効果を感じる方が多いのですが、どうしてそうなのかは今回の試験結果からわかったと思います。しっかりと成分を抽出できているので、それを使えば美白される確立が高くなりますね。