洗濯洗剤でつくるクリーム
● 最近、急速に化粧品屋の技術力というのが無くなっています
悲しいことに新商品の開発競争が激しく新商品の開発にかける時間が少なく、クリームベースに植物エキスをいくつか足して新商品とする傾向があります。
クリームや乳液は、オイルを水に溶かしたものですが、長期間乳化状態を安定に保つにはそれなりの経験が必要となります。安定した状態を見出すために数百回に及ぶ試作を繰り返すことも少なくありませんでした。
ただ、そうすると非常に時間がかかりすぎ、開発がどんどん遅れていきます。大手メーカーの場合は、商品化まで1年ぐらいかけることも多いですが、中堅クラス以下になると、1年以下で新商品を開発することも珍しくもありません。
そこで使われるのが原料メーカーが予め配合しておいた配合原料というものです。配合原料は、成分の特徴を十分に引き出して、安定性も十分あるため、安定性のよい化粧品を作るためには手っ取り早い原料です。
安定なクリームを作るためにはそれなりの経験が必要なため、開発には時間がかかっていたのですが、クリームベースなどに乳化剤を使用すれば簡単にできます。
代表的のは、セピゲルやモンタノブなどで成分表示が、ポリアクリルアミド、水添ポリイソブテン、ラウレス-7や(アクリルアミド/アクリロイルジメチルタウリンNa)コポリマー、イソヘキサデカン、ポリソルベート80、セテアリルグルコシド、セテアリルアルコールなどです。
ここで、ラウレスー○、○は数字、○○グルコシドというのは、台所洗剤や洗濯洗剤に使われる成分です。
ラウレス-○はラウリルアルコールにエチレンオキサイドというものをつけたものですが、エチレンオキサイドがくっついている数をラウレスの後に表記します。たとえば3つならラウレス-3、7つならラウレスー7です。
エチレンオキサイドがくっつく数ほど水に対する親和性が上がっていくのですが、ラウレス-4までは油のみに溶ける性質、ラウレスー5と6が水と油に溶ける性質、ラウレスー7以降が水のみに溶けていく性質と、数字の大きさによって性質も大きく変わります。つまり、ラウレスー3とラウレスー20では、同じような名前ですが、界面活性剤としては別物です。
ここで問題なのは、ラウレス-7で実は台所洗剤や洗濯洗剤に使われるポリオキシエチレンラウリルエーテルという成分と同一のものということです。台所洗剤ではラウレス-5から7を洗濯洗剤ではラウレス-7から9を主に使います。安い洗剤の成分表示を見れば、主成分としてポリオキシエチレンアルキルエーテルが入っていることがわかります。また、○○グルコシドというのも、台所洗剤の主成分として使われる成分です。
セテアリルグルコシド、アラキルグルコシド、ヤシ油アルキルグルコシド、ミリスチルグルコシドなどです。
*化粧品では薬事法により成分表示はラウレス-○と表示されますが、台所洗剤や洗濯洗剤は、家庭用品表示法という経済産業省の法律に従わないといけませんので、表示はポリオキシエチレンアルキルエーテルとなります。
つまり、簡単に化粧品開発を行うために、台所洗剤と同じ成分で作った化粧品が安易に販売されているわけです。こういうベースは多くの化粧品会社で使われているため、日本国内外を問わず有名な外資ブランドであっても、全成分を見れば楽に作られた化粧品であるかどうかがすぐにわかります。
とくに多いのは、ポリアクリルアミド、水添ポリイソブテン、ラウレス-7という表示で、独特な使用感があるため、多くの化粧品で使われています。
残念なことに日本の大手ブランドの中の一部にも使われることがあります。
こういう乳化剤と使うと目視ではわかりませんが、顕微鏡でみるとすぐに粒子の大きさや粒の揃い方でどういう技術屋が関わっているのかということがよくわかります。上述の乳化剤を使うと粒子の大きさは不均一ですが、たとえばSPG乳化法などでは水に溶けた均一の油の粒が綺麗に並んでいます。
新製品が続々とできる背景には、原料メーカーの思惑通りというか、化粧品メーカーの技術屋さんの熱意が無くなって、楽な製剤に手を出していることも多いです。そういうものを使って作る化粧品は、素人がそういう素材を入手して作る手作り化粧品とどう違うのか。
本気で乳化技術に磨きをかけている企業と安易な素材に手を出すメーカーでは、どんどん差がでていくような気がします。ちなみに価格というのは、摩訶不思議なもので、配合原料を使ったコストの安い商品は高く売られたりする一方、乳化に苦労して作られたものが低コストで提供されることも多いです。価格と技術が比例しないのが、化粧品の世界ですからね・・・(笑)