HOW TO 講座

化粧品成分の安全性(パッチテストより)その1

化粧品が全成分表示なってから色々成分が気になる方もおられると思います。
たとえば界面活性剤や防腐剤、合成ポリマーは危険だという論調もあります。
ただ、化粧品を批判する化粧品毒性判定事典の著者が関係する化粧品会社がブチルパラベンという防腐剤のパラベン類でも欧米でも最も危険視されている成分を使うなど、言っている事と実際販売している商品が???なところも多いです。

化粧品の歴史を見てみると、もう随分昔にねずみの動物実験で合成洗剤を塗ると死亡したり、奇形児が生まれたりするという恐ろしい発表が三重大学の三上教授からありました。
国会や厚生省、マスコミも巻き込んで大変なことになったのですが、結局、ねずみが奇形児を出産するという実験は三上教授以外からは確認できず、さらに三上教授と他の大学の先生が共同で同じ実験を行いましたが、やはり同様に奇形児は生まれませんでした。それで、合成洗剤の毒性は否定されたのですが、三上派は内部で分裂し、表向きは小さな出版会社から様々な批判本をだすことで今に至っています。

まあ、昔だからあんな動物実験が許されたのでしょうが、同じことを今やると石鹸VS合成洗剤ということより欧米の動物愛護団体から三上先生の手法は強烈に批判されるでしょうね。
なお、界面活性剤だけが刺激物になるわけではありません。

以下に名古屋大学で行ったパッチテストの結果(皮膚、31-38、33(sp11)、1991)を示します。

モルモットは側腹部の毛を剃り、そこへ試料を24時間貼り付けたときの結果です。
健常人は男性14名、女性16名、年齢28-57歳の上背部に48時間貼り付けて、除去1時間後と24時間後判定しました。

皮膚疾患患者は男性1名、女性34名、年齢18-59歳で、接触皮膚炎23例、酒さ様皮膚炎8例、アトピー性皮膚炎、肝斑、顔面湿疹、顔面再発性皮膚炎ぞれぞれ1例で、上背部に48時間貼り付けて、除去1時間後と24時間後判定しました。
1時間後と24時間後の2回の判定で、強い反応を選択しています。
反応なし 0点、軽い紅斑 0.5点、紅斑 1点、紅斑+浮腫 2.0点で、全員の点数を合計して、人数で割った後、100をかけて刺激指数を導きます。
刺激指数は0-5点で安全品、5-15点で許容品、15-30点で要改良品、30点以上で危険と判定します。
大学病品や各企業でパッチテストをするときに使われている方法です。

成分名
モルモット指数
健常人指数
皮膚病患者指数
オクタン酸セチル(100%) 70 1.7 10.0
ミネラルオイル-50cs(100%) 95 11.7 18.6
ミリスチン酸イソプロピル(100%) 85 3.3 5.7
パルミチン酸イソプロピル(100%) 115 3.3 10.0
ミネラルオイルー90cs(100%) 65 0 8.6
ステアリン酸イソセチル(100%) 40 1.7 4.3
スクワラン(100%) 30 5.0 8.6
小麦胚芽油(100%) 0 0.0 2.9
アジピン酸ジイソプロピル(100%) 20 6.7 4.3
ホホバオイル(100%) 40 0 2.9
葡萄種子油(100%) 10 1.7 8.6
アボガドオイル(100%) 30 20.0 1.4
ジメチコン(100%) 0 1.7 8.6
セレシン(10%) 20 5.6 8.6
セタノール(10%) 20 6.7 2.9
水添カカオ脂(10%) 30 0 7.1
ミリスチン酸ミリスチル(10%) 35 0 1.4
ステアリン酸(10%) 0 1.7 8.6
ラノリン(10%) 10 0 4.3
ミツロウ(10%) 30 5.0 8.6
ステアレスー2(5%) 35 3.3 45.7
ステアレスー100(5%) 10 0 21.4
セスキオレイン酸ソルビタン(5%) 10 0 37.1
ステアリン酸ソルビタン(5%) 5 3.3 15.7
ステアリン酸PEG-40(5%) 10 0 15.7
ステアリン酸グリセリル(5%) 0 0 11.4
ワセリン(100%) 0 0 8.6

オクタン酸セチルからジメチコンまでは液状のため、100%濃度での結果です。
セレシンからミツロウまでは固形油脂のため、ワセリンに10%溶かしたものでの結果です。
ステアレスー2からステアリン酸グリセリルまでは界面活性剤でワセリンに5%溶かしたものの結果です。

界面活性剤は5%にも関わらず結構刺激指数が高くなっています。
ただ、ステアレスー2とステアレスー100との違いは分子がステアレスー100の方が大きく、その分刺激が低くなっています。
界面活性剤は5%で判定していますが、通常5%配合するスキンケア化粧品はありません。
オイルを高配合してナノ粒子にしない限り、多くても数パーセントでしょう。
ミネラルオイルも粘度があって分子量が大きい100csの方が刺激は低いです。

オイルなどは一般的に刺激が無いと思われがちですが、少なからず刺激を感じる人はおられます。
皮膚疾患患者では全体的に刺激が出ていますが、これは角質層の状態が良くないためです。
健常人であっても皮膚病になったり、また皮膚病から回復して健常人に戻ったりというサイクルで我々は生活していますが、急に化粧品が合わなくなるのは、肌の状態により非常に左右されやすいということがわかると思います。
アトピー向け化粧品は色々ありますが、界面活性剤を使わなくても単なるオイルで刺激を感じる方もおられますし、この結果を見ているとなかなか化粧品というのは難しいということがわかります。

なお、モルモットを使った実験では健常人の結果とは相関はありませんが、皮膚病疾患患者に対しては原料によって、ある程度相関関係があります。そのため動物実験を行う企業はいくつかあります。
欧州では化粧品の動物実験を禁止する法案が成立していますが、その一方でREACHという動物実験を多数やらないと化学物質の流通を禁止する法案も成立しているので、今後本当に動物実験がなくなるかどうかはわかりません。
REACHは企業が販売する製品の安全性を動物実験等で各企業が自ら証明することを義務付けたものです。

ここでパッチテストの豆知識として、女性の場合は生理周期で肌への刺激が変わることが多いです。

排卵日を中心にして、生理開始から排卵日までの「常温期」と排卵日から次の生理開始までの「高温期」に2分して、さらに常温期を常温前期と常温後期、高温期を高温前期と高温後期に分けると、刺激を感じやすいのは生理開始前の高温後期で、刺激を感じににくのは排卵日前の常温後期となります。

パッチテストの結果を1時間後と24時間に分けるのは、パッチテストにバンソウコで赤み(テープかぶれ)が引くまでに個人差があって、除去後すぐに判定するのではなくて、赤みがひく1時間後に判定します。
また、1日後に反応が強くでることもあるので、再度24時間後に判定するわけです。

パッチテストは幼児が一番感受性が高くなりますが、倫理的に行うのは無理なので、18歳以上の大人で行うのが通例です。平均22歳と平均75歳の被験者では22歳の方が感受性は高くなります。

この研究では背中の上に貼り付けていますが、ここがパッチテストで一番行いやすいからです。
万が一かぶれることもあるので、顔などでは行いません。(研究者は顔でのデータが欲しいと思いますが、倫理的に無理でしょう(笑))