ナノ化粧品の安全性について
最近はナノテクノロジーブームで化粧品にもナノカプセル化や各種ナノ粒子が
開発されています。化粧品の場合、10年以上までは考えられないくらい小さな粒子になっています。
ビタミン類をナノカプセル化すると成分が浸透しやすくなると言われ、ナノ化するのがブームとなっています。
ここで、有効成分が肌に入る時のことを考えてみましょう。
成分は基本的に肌の細胞と細胞の間の隙間を通って浸透していきます。
この細胞間の間隙は40-60nm(健康な肌の場合)ぐらいで、
ナノカプセルはちょうどこの程度の大きさとなっています。
ただ、あまり小さなナノカプセルだとカプセルを作る成分ばかりとなり
カプセル内の容量が小さくなるので、ナノカプセルと言っても極端に小さなものはありません。
ちなみに身長160cmの人が石鹸の分子の大きさだとすると、細胞と細胞の間は、幅60mの川ぐらいです。
パラベンなどの防腐剤はせいぜいソフトボール程度の大きさです。
化粧品の成分は皮脂が詰まった川の中に飛び込んで浸透していくわけです。
さて、ナノカプセルは卵黄や大豆レシチンを使用することが多いのですが、
あえてリポソームとは言わずにナノカプセルなどということが多いです。
一般的にはレシチンでカプセルを作った場合は、リポソームというのが当たり前です。
実は化粧品でリポソームと表現するためには、動物実験でそのリポソームの
安全性を証明することが薬事法で定められています。
このデータ取得には多額の費用がかかるため、
あえてリポソームと表現せずにナノカプセルなどということが多くなっています。
なぜ、動物実験する必要があるかというと1980年代半ばから後半にかけて
化粧品会社がリポソームは肌に浸透して効果が出やすいという宣伝をしたため、
厚生省が規制に乗り出した背景があります。
要はそこまで宣伝するなら、それなりの安全性を確認してもらわないといけないと
厚生省が言い出しため、一時的にリポソーム化粧品は市場から消えました。
リポソームは安定性も悪いので、リポソームとは名ばかりの商品も多くあったのも問題でした。
結局、現時点でもリポソームと公にしている商品はコーセーやカネボウ、シャネルなどの
動物実験を行えるだけの財力のある企業に限られて、発売されています。
ちなみに、規制というのは抜け穴があって、リポソームと紙に書いたり、
製品に表示したりするのは禁止されているのですが、
販売員が口で言うことまで規制されていませんでした。
つまり、化粧品の訪販では、パンフレットを渡さなかったら問題にならないので、
厚生省から認可を受けていないにも関わらず、堂々とリポソームは肌に良いという
メーカーもあり、販売形態によっては意味の無い規制となっています。
日本では10年前にナノ化粧品については安全性への懸念が起こり、
厚生省も厳しい規制を行いましたが、それに伴いたくさんの安全性データが
とられるようになりむしろ安全性の証明となりました。
しかし、一方で近年に欧米でナノ化粧品についての懸念が広がり始めました。
ただ、レシチンや乳化剤で使ったナノカプセルではなくて、
日焼け止めに配合される酸化チタンや酸化亜鉛等に疑いが持たれています。
どちらかというと日焼け止めでは有機系紫外線吸収剤より酸化チタンなどの
無機系紫外線錯乱剤の方が安全というイメージがありました。
なんで急に安全性について議論が持ち上がってきたのかと言うと
酸化チタンや酸化亜鉛の粒子が微粒子になり過ぎて肌の中を通り過ぎて、
体内へ浸透してしまうのではないかという疑念がでてきたからです。
技術の進歩により微粒子酸化チタンは50nmどころか5nmのものも登場しています。
5nmとなると化粧品に使われる乳化剤とさして変わらないほどの大きさです。
こんなに粒子を小さくする理由は、紫外線防止効果を上げ(少量でより強く防御する)、
仕上がりを白っぽくならないように、写真撮影のときもフラッシュでの
白浮きを軽減させるためにするためです。
白浮きを減らすには太陽や蛍光灯の光が肌に当たったとき、反射される光の量が
少なくなれば白っぽく見えにくくなります。
それを行うにはレイリー散乱(粒子が小さくなると反射する光も小さくなる)を
利用します。具体的には目に見える光は可視光線といいますが、
この可視光線の波長より酸化チタンの粒子を小さくすることが前提となります。
そうすると、白色塗料にも使われる酸化チタンが光を反射しにくくなり
粒子が小さくなるにつれて白から青っぽい色になっていきます。
(逆に白色塗料として使うにはある程度の粒子の大きさが必要となります)
つまり、ファンデーションの仕上がりや日焼け止めの仕上がりを
良くしようとなるとこの粒子の大きさと言うのが非常に重要となるのですが、
今まで技術が無くて粒子も大きくとても皮膚の細胞と細胞の間から
入り込めなかったものが入るようになってきたので、
ヨーロッパの環境保護団体がそれは問題じゃないかといい始めたのです。
いつもは(化粧品の安全性は)環境保護団体が言っているだけなのですが、
今回は一部の科学者も同調したことから話が大きくなりました。
肌の中を通りすぎて、体内に入り、肺の毛細血管に詰まったり、
脳に蓄積したり免疫細胞に取り込まれて細胞を異常に活性化しすぎたりする
ことも懸念されるという声が高まって、とうとう国を動かしました。
今後、OECD(経済開発協力機構)でナノ微粒子を配合した化粧品の評価や
評価方法の開発が行われます。なんでOECDでやるかというと
各国がばらばらに評価方法を決めるとややこしくなるので、
国際的に統一した方法で評価する方がすっきりしてよいからです。
実際に化学物質の安全性や生分解性などOECDが決めた方法でやることも多いです。
ただ、OECDだけでなくて、アメリカのNTPという毒性評価専門機関や
厚生労働省でも数年内の結論を目処にデータを収集しはじめました。
日本の化粧品工業会でも酸化チタンが皮膚から入るわけないとデータを収集しています。
結論が出るまで粒子が大きいものを選べばよいような気がしますが、話はそんなに簡単ではないのです。
酸化チタンや酸化亜鉛というのは、半導体といって、
紫外線が当たると吸収して表面に電子が生成する性質を持っています。
(このときの紫外線吸収こそが酸化チタンの紫外線防止効果につながっています)
普通の物質なら電子ができてもすぐに消えるのですが、酸化チタンはすぐに
消えず出来た電子を周りの酸素に与えて活性酸素に、水やアルコールからは
逆に電子を奪ってラジカルという反応性の高い物質に変化させます。
この反応はピコ秒やナノ秒というとてつもないスピードで進んでいくため
酸化チタンの表面についた物質は酸化されてどんどん別な物質に変化します。
工業的にはこの性質を利用して難分解性の物質を分解させるのに使用します。
化粧品ではこんなことが起こると大変なので、酸化チタンの表面をコーティングして
活性酸素の生成を抑えることが重要となるのです。
このコーティング技術はかなりメーカーによって差がでるため
しっかり開発力のあるメーカー品を使う必要があるのですが、
そういう技術力のあるところは熱心に酸化チタンを微粒子にしているので、うーーんと考えてしまいます。
ちなみに金属は鉄やらアルミやら色々あるのに紫外線防止効果があるのは、
半導体と呼ばれる紫外線を吸収する能力のある金属に限られます。
紫外線から肌を守るには、紫外線吸収効果のある金属でないといけないし
そういうものは表面から電子を放出して周りのものを酸化します。
粒子が大きいと白浮きするし、ある程度の小さな粒子にする必要もあります。
日焼け止めはこれらの課題をうまくこなして作った上で
さらに人体実験でSPFやPFA測定を行いますので、結構開発費がかかるアイテムとなります。
最後にナノ粒子化の問題は、動物実験のデータが揃えば
懸念が払拭されて安全性が証明されるのではないかと思います。
酸化チタンが危なそうだからといっても日焼け止めを使わないのはナンセンスです。
日焼け止めを塗って紫外線を防ぐと言うのは、癌防御や老化防止に大きなメリットがありますからね。
なお、ナノ粒子について警告を発したアメリカの学者が書いた論文が
先日実は変性した試料を使って毒性評価をしていたということが判明しています。
こうなってくると変性したのが悪いのかナノ粒子化したのが悪いのか
どちらが悪かったのがわからなくなりますが、じっくりと検証してから発表して欲しいですね。