キレート剤とEDTAについて
キレート剤は化粧品の他、食品などにも配合されている品質保持を目的とする成分です。
配合量は0.01%以下と極めて少ない量ですが、水の中に溶けている金属をしっかり捕まえる性質を持ちます。
このキレート剤は化粧品では、EDTA(エデト酸)、クエン酸、フィチン酸が相当し、金属イオンを不活性化します。
サプリメントやドリンク剤では配合量が多くて1%程度になることもありますが、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸が相当します。
こちらはカルシウムやほかの体に有用な金属を水に溶かしやすくするために使われます。
(腸から吸収しやすくする)
では、化粧品ではどうしてキレート剤を使うのでしょうか。
金属イオンは化粧品の成分とくっつくと水に溶けにくくさせることが多いです。
そのため、金属イオンをしっかり捕まえておく必要があり、キレート剤が使われます。
ほんの微量の金属が水に溶けているだけで、化粧水がすこしぼやけたり沈殿したりすることがあり、そこへEDTAを配合するとスカッとした澄明となります。
金属イオンは主に水から入ってくることが多いので、水道水ではなく精製水で化粧品を製造することが一般的です。
市販の石鹸はステンレス釜で製造するのが一般的ですが、釜から溶け出す金属によって石鹸が酸化されやすくなることも多いです。
石鹸が酸化すると茶色に変色していきますが、無添加石鹸とEDTAなどが配合された石鹸ではとくに使用開始後の酸化に対する抵抗性が変わります。
(無添加の方が表面が茶色くなりやすい)
また、EDTA自体は旧指定成分でアレルギーを起こすこともあるといわれますが、金属アレルギーの方に無添加石鹸が使えない人もおられ、その場合は金属を不活性化するEDTAが入った石鹸を選ぶ必要があります。
金属アレルギーの方の多くはニッケルやクロムに反応しますが、これらはステンレスから溶出し、EDTAが入っていると金属イオンを不活性化して金属アレルギー反応を起こさせにくくします。
金属イオンは成分と結合して水に溶けにくくするほか、酸化しやすくさせることも多いです。
上記の石鹸がその代表例ですが、ただこれも悪いだけではなくて人間の体ではその酸化促進作用をうまく利用しています。
それは酵素というタンパク質で、金属イオンの酸化力を利用しているものは多くあります。
代表例はメラニンを作るチロシナーゼという酵素で、酵素の中心にある銅がアミノ酸を酸化してメラニンを作り上げていきます。
ほかにもコラーゲンを作るのには鉄が必要ですし、人間の体は様々な微量金属を必要とします。
多くは酵素を作るために使われて、その金属の酸化力を巧みに利用しているわけです。
また、酵素は人間だけではなく、小さな微生物、たとえば菌等でも作られ、その酵素を作るのにも金属を必要としています。
EDTAが化粧品に配合される最後の理由が、菌が生育に必要な金属を奪うことで菌の繁殖を抑えるというものです。
同じような機構は人間や動物にもあって、たとえば牛乳に含まれるラクトフェリンや人間の血液に含まれるトランスフェリンが代表例です。
これらの殺菌機構はとくに鉄を奪うことで、病原性の弱い細菌の増殖を困難にします。
ちなみに、病原性が強い菌はラクトフェリンやトランスフェリンからでも金属を奪うタンパク質を合成する能力を持っているため、これらの殺菌効果は限定されたものとなります。
なお、この病原菌が作るタンパク質からも金属を奪い去るのがEDTAで、一口にキレート剤といっても金属イオンとの親和性が大変重要になります。
ただし、EDTAは安価で多彩な才能を持つにもかかわらず、
唯一の弱点が全く生分解しないという難点を持っています。
微生物がもつ酵素ではEDTAは分解しないため、紫外線によって長期間かけて分解するしか道がないのです。
ヨーロッパではこれが大変大きな問題となりました。
EDTAは石鹸に配合するとミネラルが多く泡立たない場合でも豊かな泡が立つということで、石鹸に多く配合されたり、工業用洗剤に大量に配合されていました。
日本は一部の地域を除いて石鹸を使用するには支障がありませんが、ヨーロッパではEDTAなしには石鹸カスが多くでてとても使えるような状況ではありません。
そこでEDTAが配合されるようになったのですが、このEDTAが川や湖で分解されないため、どんどん蓄積される一方でした。
困ったことに川に流れた水から水道水を作るので、水道水中のEDTAの濃度がどんどん濃くなっていきました。
EDTAは面白い特徴があって、人間の体に有害な重金属ほどキレートする能力を持っています。
つまり、カルシウムやマグネシウムなどの通常のミネラルより瞬間的に重金属を好んでキレートするため、公害で汚染された水や塗料の粉塵などを取り込んで体内に重金属がたまると、EDTAを飲むことで体内から重金属を排出することができます。
また、放射能に汚染された場合、体についた放射能を洗い落としたり、体内から排出することもできます。
ところが、EDTAは全く生分解しないという大きな欠点があるため、洗剤や化粧品を使用した後、下水に流れたEDTAが危ない重金属と結合します。さらに下水が川に放流された後、川の水を汲んで作った上水道にEDTAの危険な重金属塩が流れ込むという状況になりました。
本来水に溶けにくいはずの重金属がEDTAによって水に溶解し、体内に吸収しやすい形で水道水に紛れ込むわけですから、大きな問題となり、ヨーロッパの国々でEDTAの洗剤への配合禁止など、使用規制が行われました。(10年ほど前)
日本でもEDTAは色々なところで使われていますので、当然水道水にも紛れ込んでいますが、ヨーロッパに比べて格段に低く、リスクも少ないので使用規制の必要はないというのが国の見解です。
キレート剤といっても様々ですが、EDTAは特に金属を一度掴んだら、離さないという特徴が、長所でもあり短所にもなります。
クエン酸などのほかのキレート剤は、金属を掴んでもすぐに離したりするので、その点がEDTAとは異なる点です。
さて、なんだか詳しく知ると、他にもあまり使いたくないなというような成分があるかもしれませんが、北欧やドイツでは自然化粧品が明確な定義によって決められていて、
- 動物の原料を使わない。
- 動物実験を行った原料は使わない。
- 合成保存料は使わない。
- 合成化学物質はつかわない。
- 植物由来成分は植物成長促進剤や殺虫剤を使わない
さらに人間や動物、植物にアレルギーや毒性がなくて、きっちり生分解する原料を使うというのが決められています。
本当に「自然化粧品」かどうかを判定する機関もあって、ドイツのWarentest und Oko-Testが化粧品が自然化粧品かどうかを判定していきます。もし、偽りがあると、きっちり公表され、商品が抹殺されることもしばしばあります。
(ドイツ人は、人を騙すような化粧品は許さないらしいです)
日本の場合は、自然化粧品であっても、残念ながらドイツや北欧の基準に適合するものは、ほんのわずかだと思いますが、いずれスウェーデンやドイツの検査機関で合格しているものを売りものにするブランドも出てくるかもしれませんね。