HOW TO 講座

どうして表示成分制度ができたのか~黒皮膚病裁判~

そもそも表示指定成分制度はなぜできたのでしょうか。

黒皮膚病裁判(大阪化粧品被害賠償請求訴訟)というのは聞いたことがある方も多いかと思います。

メイク化粧品を使っていた人の顔にしみができる黒皮膚病で、患者18名が昭和52年に資生堂を除く大手化粧品メーカーを中心に7社を訴え総額1億77百万円を求めた裁判です。

裁判は4年半にもおよび、原告らにとって長い戦いになりました。

当初、原告らは顔面黒皮膚病はすべての化粧品が原因で、これはまさに公害であると訴えました。

これに対して化粧品会社は負けるわけにはいかず、潤沢な資金を使って切れ者の弁護士を雇い、応訴するのでした。

原告らは公害訴訟として提訴したものの、アレルギーによるしみであるのだから、個々の体質差も大きく、それぞれ個人が個別に化粧品としみとの関係を立証するようにと化粧品会社側に求められました。

何人もの皮膚科医が自分の信念のもとに証言台に立ち、それぞれの意見を述べました。

ちょうどこの前テレビで放送されていた白い巨塔の裁判シーンを想起してください。

口頭弁論は38回行われ、激論の末どうにか和解となりました。

原告らは化粧品メーカーの安全性確保に対する努力を認める代わりに、メーカーらは和解金5000万円を支払うことで決着したのです。

黒皮膚病はメイク化粧品に含まれる赤色219号というタール色素に含まれる不純物が原因となって、アレルギーが起こりしみができる病気です。

もともとタール色素は衣服などの繊維を染色するために作られた色素で化粧品に転用されていたのですが、昔から品質がよくないものがあったため、黒皮膚病裁判の前でもタール色素の化粧品への使用は使える種類に規制がありました。ちなみに資生堂が訴えられなかったのは、製品に赤色219号を使っていなかったためです。

裁判は4年半にも達しましたが、できたしみは化粧品の不純物によるアレルギー反応によるものなので、メーカーを訴えた原告個人個人がそれぞれ化粧品に含まれた不純物が原因であるということを証明する必要があり、長期にわたる裁判となりました。

そして総額5000万円を支払うことで和解することになりましたが、裁判の過程でメーカー側が提出した安全性データーも評価され裁判を起こした原告からも和解条項のなかで、メーカー側の安全性確保に対する努力も評価されました。つまり、メーカーは確かに慰謝料を支払うこととなりましたが、原告らに化粧品の有用性と安全性をそれなりに認めさせたのですから負けたわけではありませんでした。
(皆さんが耳にする情報は一方的にメーカーが負けたというようなものが多いと思います)

裁判中に厚生労働省は20年ぶりに薬事法を大幅に改正して、昭和55年9月に表示指定成分制度を開始しました。つまり、アレルギーを起こしやすい成分を容器に表示するようにして消費者に注意を促す制度です。このほか使用上の注意や厚生労働省に成分を承認申請を行うときに安全性データの義務付けなども行われ、化粧品の安全性確保に対して法律面で大幅な規制を行い始めました。

全成分表示のほか、使用期間中や保存している時に変色したり沈殿物がでてくるようなお粗末な化粧水の販売も禁止されました。
(残念ながらいい加減なメーカーは未だに沈殿がでるようなものを販売するところもあります)

また、この薬事法改正前に薬局モニター制度も発足させ、薬局に届けられる化粧品の苦情を直接厚生労働省に届くようにして、被害状況を把握するようにしています。

化粧品業界にとって、黒皮膚病は大きなターニングポイントとなったと言えるでしょう。
いわゆる無添加化粧品や自然派化粧品という大変大きなマーケットが、形成される大きな要因となりました。

ところで、黒皮膚病は化粧品を使わない人たちにも発生していました。
最初に書きましたが、もともとタール色素というのは繊維を染めるために作られたものです。主たる用途は化粧品ではなくて衣服に鮮やかな色をつけるために使われていました。
そして、衣服と皮膚が接触する場合に汗などで、繊維から落ちた色素が肌に触れて、黒皮膚病を引き起こしました。とくに発生の頻度が高かったのは、ネル(厚手の布)寝間着で、寝汗により寝間着から落ちた色素で、首の付け根あたりにしみが発生しました。

おそらく、黒皮膚病裁判で恐る恐る裁判の行方を見守っていたのは、繊維業界ではないでしょうか。メイク化粧品は主に女性しか使いませんが衣服は老若男女問わずタール色素の害に曝されます。

ただ、繊維製品による黒皮膚病患者は高齢者が中心だったので、裁判には発展しませんでした。

ちなみに、自然派化粧品や無添加化粧品は表示指定成分を入れないことばかり強調しています。
本来、表示指定成分は統計学的にアレルギーを起こしやすい成分が選ばれて、表示指定成分となってしまったのですから、安全性をうたい文句にするのなら、たとえば製品自体を1000人でパッチテストして安全性を確認したから・・というのが、本来あるべき姿のような気がしますがそういった化粧品は皆無です。

パッチテストデータは、大手メーカーでも自然派メーカーでも、黒皮膚病裁判をサポートした消費者団体よりのメーカーですら一切公表していません。数百人規模のパッチテストデータを公開しているのは資生堂のイブニーズDRシリーズのみでそれより少ない人数ではいくつかのブランドが公開していますが、その程度です。

本来、自然派メーカーや無添加メーカーが積極的に安全性データを公表するべきなのでしょうが、あぶない成分を入れていないということを強調する程度で、実際にそのあぶない成分をいれないないからどれだけ安全なのかという統計学的にちゃんと検証したデーターを公表することはなぜかありません。

パッチテストデータを取得するにはボランティアを動員して行うとしても多額の費用がかかるため、それが惜しいのか、それとも化粧品に違った角度から統計学の光に照らされるのが困るのか・・・・・(笑)