HOW TO 講座

お医者さんによるしわ治療2(メルマガより)

今から400年前、ハンガリーのトランシルバニア地方に
名門の伯爵夫人がいました。優雅な貴族とは無縁の性格で、気性が荒く、
気に入らないことがあると侍女を容赦なく殴りつけていました。

ある日も侍女の過ちをとがめ、怒っていつものように殴り始めました。
ただ、今回は今までと違ってあまりにも激しくそして長く殴打したため、
気がつくと顔に侍女の返り血をべっとり浴びていました。

慌ててその血を拭おうとすると、なんとその血がついた部分だけが
他の部分とは違い、いきいきとはりのあるような感じになっていました。
そのことに感心した彼女は、さらに侍女を拷問にかけては血を抜き、
大量の血で作った血液風呂に入って・・・

吸血鬼ドラキュラのモデルである実在の人物であるバートリー伯爵夫人は
数百人の娘を殺しては彼女達の血を使って肌の衰えを止めようとしたようです。

今回はしわ治療に使われるレーザー治療についてですが、
その前に我々の体内を廻っている血について理解しておく必要があります。

ポイント:細胞成長因子とレーザー治療

人間の体は皮膚に覆われ、皮膚は隙間なく詰まった表皮細胞に
よって作られています。細胞と細胞との間の隙間がほとんどないため
小さな分子でも容易にすり抜けることができず、
その結果、外界からの異物や細菌などの進入を阻止しています。

しかし、人間の皮膚は頑丈なものでもなく、ちょっとしたことで
傷ができてしまいます。傷口ができると全く無防備な組織が現れて、
細菌などの進入を簡単に許してしまいます。抗生物質ができるまでは、
傷口から侵入したばい菌によって、死ぬこともありました。

ただ、人間の体には防御機構が備わっていて、小さな傷ならほっておいても
数日経てば簡単に治すことができます。また、ナイフなどで傷がついて
深い傷がついても治すことはできますが、傷跡が残る場合があります。

一体、どういう機構で傷を治していっているのでしょうか・・

人間の皮膚は表皮と真皮で組み立てられていて、表皮には血管がなく
隙間なく細胞が並び、外界からの侵入を防ぐ一方で、
真皮には毛細血管が張り巡らされています。
皮膚が破れて真皮の毛細血管まで傷がつくと、そこから血が流れ出します。
血は皮膚の外にでるのと同時に固まり、傷口を塞ぎます。
血の中には血小板というものがあるのですが、それが集まって固まり傷口を
塞ぐ役割を担っています。

ただ、いくら血で傷口を塞いでもあくまで応急処置なので、
すぐに表皮の細胞を増殖させて傷口を細胞で埋め、
異物や菌の侵入を防がないといけません。
しかし、普段どおりのスピードで増殖していては、
たちの悪い細菌の侵入を許してしまう恐れがあります。

そこで力を発揮するのが、血小板に貯蔵されている
細胞の増殖を促すペプチドです。出血と同時にPDGFやEGF、
TGFβというペプチドが血小板から放たれ、
このペプチドが細胞の表面にくっつくと細胞は爆発的に増殖していきます。
そうして傷口を塞ぎさらにコラーゲンを分泌しもとの皮膚に戻っていきます。

「ここで、人間の細胞をバスケットボールにたとえると、ボールの表面に
色んな鍵穴がたくさんついていると想像してください。
そしてその鍵穴に鍵を差し込めば、コラーゲンができたり、
細胞が増殖しはじめたり、また増殖スピードを緩めたりします。
この鍵が上のPDGFやEGFのようなペプチドです。
人間は100兆個の細胞からできていますが、細胞が自分勝手に成長せず
ほかの細胞と協調して生きています。つまり、その協調性を
促すのがペプチドで、緊急事態に細胞が皆一緒に対応するように
色々な細胞が状況に応じて作っています。」

面白いのがこれらのペプチドは、たとえばコラーゲンを作る細胞には
細胞の増殖とコラーゲンの産出を促すが、表皮の細胞に働くと
増殖は止めるといった多彩な作用を持っているところです。

せっかくだから細胞の増殖を止める必要はないと考えられるかもしれませんが、
たとえばケロイドという状態は、コラーゲンを作る細胞が過度に増殖し
さらにコラーゲンを作りすぎて、周辺の皮膚より盛り上がっている状態です。

「すべての女性は、少なくとも自分の肌だけは外から見て凸凹がない、
つまり平坦で均一の状態を望んでいます。」

そうした望みをかなえる為には、単に増殖して皮膚を盛り上げるだけではなく、
いっぱい増えた細胞を減らして、元の皮膚と同じ高さにする
増殖抑制機能は必要だとわかっていただけると思います。

ただし、これらのペプチドは細胞に働きかける力が強いので、
普段は血小板の中には不活性型として閉じ込められていて、
緊急事態のときに活性型に変化して細胞に働きかけます。

このほか、傷口には細菌と戦う免疫細胞も集まってくるのですが、
彼らは死んだ細胞を食べて処理するのと同時に細胞を増殖させるペプチドを
放出し、組織の修復を促していきます。

さて、ここでこれらの細胞の成長を促すペプチドというのは、
アミノ酸が多数集まってできています。
たとえばコラーゲンを作る細胞の増殖とコラーゲン産出を促す
TGFβは分子量25000、bFGFという似たような働きをする
ペプチドも分子量が18000と、かなり大きな分子なので、
たとえお肌に塗っても浸透してコラーゲンの増殖を促すというのは
まず無理な話です。傷がある皮膚や床ずれした皮膚ならまだしも
正常な皮膚ならバリア能力が働いて、入ることはできません。

化粧品の成分でコラーゲンを作るというものは色々ありますが、
現実的にケロイド状態になるほど、コラーゲンを作らせるような
ものはありません。しかし、人間の血の中に貯めこまれている
これらのペプチドは、たとえばナイフなどで切って出血が多いと
傷跡が盛り上がって(コラーゲンが合成されすぎて)
その跡が一生残ってしまうように、凄まじい能力を発揮します。
(あまりにも強すぎる効果も問題なのです)

この能力を生かしてしわ治療に使おうとしても単純に塗っても入らず、
注射器でいれることは可能ですが、量が多いとコラーゲンを作りすぎて
ケロイドになるため、現実的な話ではありません。
むしろ、コラーゲンを入れたほうが、安全でしょう。

さて、外から塗って入らないものを皮膚の下で作らせることで、
アプローチするのが、レーザーです。レーザーは皮膚の組織に吸収されると
熱エネルギーに変換されて、周囲の細胞を傷つけて効果を発揮します。
また、波長を変えると、吸収される組織を変えることができて
たとえばしみの治療にはしみだけに吸収される波長にすることで、
しみを作る細胞の中の、メラニンを作る部分を破壊し、
メラニンを作れないようにしてしみとり効果を発揮します。
(医者が下手くそだと、細胞自体を殺して色が部分的に抜ける場合がありますし
しみがなかった部分の細胞を活性化して、しみの周辺にしみができる場合があります)

そしてレーザーの波長を変えることで、血管に吸収されるようにすれば、
血管を選択的に破壊することができます。血管を破壊することで、
炎症を起こしTGFβやbFDFといった細胞成長因子を放出させて、
コラーゲン増殖を促し、結果的にしわを減らすのが、
レーザーによるしわ治療の考え方です。

ただし、太い血管を傷つけていっぱい細胞成長因子を放出させても
ケロイドという事態になりかねません。

そこででてきたのがN-LIGHT(商標名)というレーザーで
表皮に近い真皮の毛細血管を中心に破壊するレーザーです。
太い血管をあまり傷つけないので、細胞成長因子を放出させすぎる
ということはありません。

ちなみにアメリカの保健衛生局(FDA)のしわとりレーザーの許可を
取っているので、当局のお墨付きを売り物にして、
美容外科や美容皮膚科、形成外科にこれからどんどん導入されて
いくことだと思います。

さて、冒頭の伯爵夫人は美しくなるため、他人の血を肌に塗るということを
行っていましたが、面白いことに昔の高級化粧品には牛の血から
抽出した成分を配合していました。(狂牛病で禁止されました)

今は人間の血というのはエイズや肝炎ウィルスなどに汚染されている
可能性があるため、他人の血に触れる時は気をつける必要があります。