有効成分の抽出について
ここでは生薬からの成分抽出について少し詳しくお話をしていきたいと思っています。
生薬をエタノール溶液に浸漬して成分を効率的に抽出することは、薬剤学で研究されています。
詳しく勉強したいと考えられるなら、書店で薬剤学の教科書をみられたらよいでしょう。
さて、結論から言うと有効成分の抽出のポイントは
- 室温で抽出する
- 乾燥した生薬を使う
- 可能ならできるだけ砕いた生薬を使う
- 時間をかけて抽出する
ということが挙げられます。
生薬からの成分抽出において、抽出の効率とそれらに関する因子を表現する式は
E=O・σ(KS-KF)・t というフィッシャーの式で表されます。
・Eは抽出した有効成分の量
・Oは生薬粒子の表面積
・σは成分移行係数(抽出剤の種類・温度)
・KSは生薬粒子と抽出剤との界面での成分濃度
・KFは生薬粒子内部の抽出剤の平均濃度
・tは抽出時間
この式から成分の抽出を合理的に行うためには
- 生薬の粒度を小さくすること・・・Oの要因
- 出剤の濃度を最適にすること・・・・σの要因
- 分の抽出剤への拡散を促進すること・・・・(KS-KF)の要因
- 抽出時間を適正にすること・・・・tの要因
ということが挙げられます。
結局、細かく生薬を砕いて(Oの要因)、30%エタノールもしくは40%BGで抽出して(σの要因)、生薬を粉砕したまに抽出瓶を振ってやって((KS-KF)の要因)、だいたい1ヶ月程度抽出(tの要因)を行えばよいと思われます。
● 抽出温度について
生薬から成分を抽出するには15~25℃で抽出を行う冷浸法と35~45℃で行う温浸法の二通りあります。抽出温度を上げると、生薬の組織を軟化し膨潤を促進します。そして成分の溶解度と拡散速度は増大し、成分の収量を上げ、抽出時間を短縮できるメリットがありますが、生薬エキスの保存中に沈殿物がでやすいというデメリットがあります。生薬化粧水に挑戦されるたいていの方が長期保存を前提に抽出をおこなっている現状を考えると、冷浸法で抽出された方がよいと考えます。
● 生薬の粉砕について
生薬を粉砕するメリットは次ぎの4つが挙げられます。
- 抽出剤に接触する表面積が大きくなる。
- 細胞が壊れて有効成分が放出される。
- 抽出剤に漬けたとき膨潤して破裂する機会が多くなる。
- 柔らかい内部組織が抽出剤に露出するため、抽出が促進される。
理論的には生薬を細かくしたほうが、抽出効率がよくなりますが、あまりにも細かい粒子にしてしまうと、抽出自体の効率はよくても、漬けこんだ生薬とエキスを分けるときに澄明な液でなくなり、つまり濁ったエキスになってしまいます。ですから、生薬を砕くときにはあまり熱心にする必要はないので、ほどほどに行ってください。
なお、ユキノシタ等庭に咲いている薬草をつかって化粧水を作られる方はできるだけ乾燥させて使ってください。晴れの日に採取して通気性のよい棚に広げます。新鮮なものは60~90℃の水分を含みますが、乾燥することにより10%前後まで水分が低下します。生薬の乾燥は通常60℃以下で行います。65℃以上では蛋白質が凝固してしまい成分の抽出が妨げられることがあります。また、ドライヤーで乾かすと乾燥した空気中の酸素により成分が酸化されてしまう恐れがありますので、どうしても急いで乾燥させたいということなら電子レンジで乾かされることをお勧め致します。
● 有効成分の抽出の機構について
植物を低温で乾燥させると組織中の水分が蒸発して細胞と脈管は萎縮し、細胞液中に溶けていた物質は結晶性または無結晶性の沈殿となって細胞壁から離れていきます。生薬を粉砕することにより、一部の細胞は壊れて内部の物質を放出し、成分は直接抽出剤に曝されるので、生薬の粒度を小さくするほど、この段階で溶ける成分は多くなります。水を含む抽出剤の場合は粉砕によって破れなかった細胞の細胞の間隙に侵入し、ペクチン質を膨潤して細胞膜を透過性にして成分の抽出を容易にします。
細胞間隙への抽出剤の侵入 → ペクチン質の溶媒和 → ゲル化 → ゾル化 → 有効成分を包んでいる細胞膜が透過性になる
細胞膜を透過性にした抽出剤は原型質を膨潤させて可溶性成分を溶かし、浸透圧の原理で成分は膜外に拡散していきます。さらに抽出剤が細胞内へ侵入する速さは細胞内の水分が膜外へでる速さより大きいため、細胞は膨潤し、ついには破れて有効成分を放出していきます。このとき抽出瓶をふってやると生薬粉末の周囲に層をなした溶液が抽出剤中に拡散するのを助けます。
抽出後の生薬には抽出エキスと同じの濃度の成分が含まれており、一部は不溶性の細胞物質に吸着され、これらの成分および抽出剤が完全に回収できないのが、浸漬による抽出方法の弱点だとされています。
なお、本文中の抽出剤というのは、15~30%エタノール溶液もしくは40%BGのことです。
参考文献:新・薬剤学総論 165-177