チロシナーゼ阻害試験から見た生薬エキスの美白力
各エキスを化粧水に何パーセント配合すれば、どのくらいのメラニンを作らせないかを表しています。数字が大きいほど、効果が強いことを表しています。試験管内での試験なので、そのまま美白力の強弱に表れるわけではありませんが、5%も配合すれば、市販の化粧品と何ら遜色がないことがわかります。なお、エキスは単独より組合わせた方が効果は高くなります。豚プラセンター原液はとても低くく、驚かれる方もおられるかもしれませんが、もともとプラセンターエキスは美白力が低いので、こんな程度です。
手作りの生薬エキスも市販の生薬エキスやプラセンターエキスに匹敵することが理解していただけると思いますので、あまり高濃度に化粧水へ配合されないように気をつけてください。
チロシナーゼ阻害試験の詳細についてはHow to講座の生薬の美白力と生薬化粧水作成ガイドラインを参考にしてください。
生薬組み合わせによる相乗効果の測定結果(100に近いほどメラニンを作らせない力が強い)1%ずつ配合 | 2.5%ずつ配合 | 5%ずつ配合 | |
自作甘草 50%BG抽出と自作ソウハクヒ 50%BG抽出 |
74 | 88 | 93 |
自作甘草 50%BG抽出と自作ウワウルシ 35%エタノール抽出 |
83 | 98 | 100 |
自作ソウハクヒ 50%BG抽出と自作ウワウルシ 35%エタノール抽出 |
83 | 96 | 99 |
1%配合 | 5%配合 | 10%配合 | 原液 | |
自作ユキノシタA 50%BG抽出 | - | 26 | - | - |
自作ユキノシタB 50%BG抽出 (Aとは生薬購入先が違う) |
1.5 | 7.1 | 75 | - |
自作ソウハクヒ 35%エタノール抽出 | 13 | 56 | 89 | 100 |
自作クジン 45%BG抽出 | 39 | 75 | 78 | 74 |
自作甘草 50%BG抽出 | 45 | 73 | 93 | - |
自作ウワウルシ 35%エタノール抽出 | 47 | 74 | 100 | - |
自作ジャーマンカモミール 35%エタノール抽出 | - | 22 | - | - |
自作セージ 35%エタノール抽出 | - | 19 | - | - |
自作ロースマリー 35%エタノール抽出 | - | 11 | - | - |
自作ヨクイニン 35%エタノール抽出 | - | 1未満 | - | - |
自作火棘 35%エタノール抽出 | - | 1未満 | - | - |
ソウハクヒエキス 50%BG (原料メーカーBから入手) |
61 | 96 | - | - |
ダイズエキス 50%BG (原料メーカーAから入手) |
1未満 | 9.9 | - | - |
ユキノシタエキス 50%BG (原料メーカーAから入手) |
2.6 | 19 | - | - |
ユキノシタエキス 50%BG (原料メーカーBから入手) |
6.1 | - | - | - |
市販美白医薬部外品化粧水1 大手メーカー製 (グルコシド型ビタミンC誘導体、クジンエキス、オウゴンエキス) |
- | - | - | 74 |
市販美白医薬部外品化粧水2 大手メーカー製 (グルコシド型ビタミンC誘導体、ユキノシタエキス) |
- | - | - | 11 |
市販美白医薬部外品化粧水3 大手メーカー製 (グルコシド型ビタミンC誘導体、甘草エキス、プラセンタエキス) |
- | - | - | 99 |
市販化粧水4 大手メーカー製 (緑茶エキス、ハマメリスエキス) |
- | - | - | 41 |
市販化粧水5 中堅メーカー製 (リン酸型ビタミンC誘導体、ソウハクヒエキス、カワラヨモギエキス) |
- | - | - | 77 |
市販豚プラセンターエキス原液A | - | - | - | 45 |
トゥヴェール アクアナノライズジェル | - | - | - | 97 |
3%アルブチンジェル | - | - | - | 37 |
チロシナーゼ阻害試験結果2
2003年12月に多くの方に抽出エキスを提供していただき、「ちゃんとエキスが抽出されているか」ということを確認致しました。結論から、クジン、カンゾウ、ソウハクヒ、ユキノシタ、ボタンピなどは個人差無く抽出されていますが、ウワウルシに関しては、個人差が大きいことがわかりました。また、30%エタノール抽出、50%BG抽出共に抽出結果には差が無いこともわかりました。
試料名(エキス単独) |
エキス5%希釈時測定結果(最低、最高) |
||
平均値 | 最高値 | 最低値 | |
■クジン9検体 | 92 | 100 | 87 |
■カンゾウ8検体 | 93 | 98 | 90 |
■ソウハクヒ8検体 | 84 | 100 | 73 |
■ユキノシタ7検体 | 31 | 63 | 15 |
■ボタンピ6検体 | 81 | 92 | 55 |
■ウワウルシ7検体 | - | 10 | 0 |
■ジャーマンカモミール2検体 | 55 | 65 | 46 |
ローマンカモミール1検体 | 56 | 56 | 56 |
■シャクヤク1検体 | 22 | 22 | 22 |
■ゆずの種1検体 | 0 | 0 | 0 |
■ヒース1検体 | 76 | 76 | 76 |
■イタドリ1検体 | 75 | 75 | 75 |
■ヒオウギ1検体 | 53 | 53 | 53 |
■紅花(コウカ)1検体 | 59 | 59 | 59 |
■ローズピンク1検体 | 91 | 91 | 91 |
混合エキス
試料名 |
エキス測定結果 | ||
1% | 2.5% | 5% | |
■ウワウルシ、カンゾウ、ユキノシタ | 35 | 75 | 91 |
■ウワウルシ、ソウハクヒ、カンゾウ、ユキノシタ | 73 | 80 | 91 |
■ソウハクヒ、カンゾウ、ウワウルシ | 82 | 85 | 94 |
■カンゾウ、ソウハクヒ | 74 | 88 | |
■カンゾウ、ウワウルシ | 83 | 98 | |
■ソウハクヒ、ウワウルシ | 83 | 96 |
混合エキスは、それぞれの生薬エキス原液を同じ割合(ユキノシタ10g、ウワウルシ10g、カンゾウ10gというようにしています)で混ぜたものを各濃度に蒸留水で薄めて測定しています。
生薬エキスを単独で使用されるより、複数の生薬を合わせてお使いになるほうが、薄い濃度でも効果が強くなります。敏感肌の方にとって、エキス濃度が高いと刺激になる場合があるので、複数の生薬を組み合わせて、薄いの濃度で使われることをお勧め致します。なお、エキス濃度を高くしても比例して効果は上がらないことから、クジン以外の生薬を使う場合は、複数の生薬を使われることをお勧めします。
エキスの時間的な劣化
抽出エキスはウワウルシを除いてエキス原液を冷蔵庫で保存していただく限り、半年~1年では劣化しません。ただし、抽出エキスを水で薄めると、エキスの劣化を防いでいたエタノールやBGの濃度が下がる為、エキスが劣化していきます。抽出エキスを化粧水にして、冷蔵庫保存と50℃での3週間保存によりエキスの劣化具合を調べてみました。50℃で様子を見るのは、化粧水にした場合において1年後のエキスの劣化具合を予想するためです。手作り化粧水の場合は室温で1ヶ月安定であれば十分なのかもしれませんが、せっかく配合するのですから、1年は安定なものを作りたいものです。
クジンエキスを例にしています。クジンエキスを単純に水で薄めたものは、冷蔵庫保存、50℃保存ともに変化はしていませんが、pH9.6(pH9.6はビタミンC誘導体を5%配合した場合を想定しています)では50℃保存でかなり劣化して、エキスの美白力(チロシナーゼ阻害度)が半分以下になっています。エキスの美白力が半分ということは、実際の化粧水に配合したクジンエキスの濃度は1%程度に相当し、保存中に4%つまりエキスが80%も分解していることを示しています。これは単純にビタミンC誘導体とクジンエキスを混ぜる時間が経てばかなり分解が進むことを示しています。一方、pHが低いとエキスの美白力はあまり衰えていません。エキスの安定性というのはpHに依存していることが伺えます。ただ、エキス原液のpHは基本的に弱酸性で、そのまま薄めて使えば、弱酸性のpHになるためクエン酸などのpH調整剤を入れる必要はありません。以上のことから、たとえエキスを高濃度に配合しても、配合する成分の組み合わせによっては、期待に反してエキス成分が分解してしまうことがわかります。
また、エタノールやBGを入れたものは数値が上昇していますが、これもエキスの分解を残念ながら阻止していません。数値が上昇するということもエキス中の大きな分子が分解して細かい分子となり、美白力が見かけ上はあがっていますが、エキスの分解を示しています。後半に肌水を加えたものの数値が高いですが、これは使用したクジンエキスが最初に使ったものと違うためで肌水の効果ではありません。
市販品の安定性も同様に評価しました。5種類のうち3種類は概ね安定性が高いです。2種類は変化していますので、大手化粧品メーカーであっても生薬エキスの安定性確保には苦労してそうです。その中で市販化粧水4(販売は中堅であるが製造は大手メーカー)にクジンエキスを足したところ、肌水に足した方が結果がよくなりました。また、クジンエキスとの相乗効果もなくむしろエキスの効果は落ちています。これは配合する生薬の相性によっては、効果を相殺する場合があるということを示しています。
我々が作るエキスは悲しいことに時間が経てば分解していきます。冷蔵庫で保存していれば少なくとも菌の繁殖は別にして、エキス自体の分解はある程度防げるようです。ただ、今回の数値にはでていない化粧水の外観変化、つまり沈殿物の発生などは市販品では全くありませんでした。自作エキスのものはすべて量の違いはあっても50℃3週間保存分はすべて沈殿物が発生しています。これはエキスの分解が起こり、エキスの調合時と成分が変化して水に溶けにくくなるためで、まだまだ検討が必要な分野でもあります。薬事法ではいい加減に作られた商品が消費者の手に渡るのを防ぐため、化粧水に沈殿がでたりすると市場からの回収命令が出されます。たとえばポリフェノールやフラボノイドが酸化すると化粧水が褐色になったり、沈殿がでるので、外観変化というのは化粧水の安定性変化の尺度としては、重要なポイントとなります。
なお、市販化粧水より手作り化粧水の方が生薬エキスの濃度が濃くなる傾向にあります。単独でも複数の生薬エキスを組み合わせる場合も5%程度で十分だということがわかります。
試料名 | 2℃×3週間 | 50℃×3週間 |
■クジン5%+水(pH5.6) | 61 | 64 |
■クジン5%+水(pH9.6) | - | 32 |
■クジン5%+エタノール20%+BG10%+水(pH5.6) | 68 | 86 |
■クジン5%+エタノール10%+BG10%+水(pH10.6) | - | 49 |
■クジン5%+BG30%+水(pH5.6) | - | 86 |
■市販部外品化粧水1 通販大手 クジン、オウゴン | 74 | 57 |
■市販部外品化粧水2 通販大手 ユキノシタ | 11 | 22 |
■市販部外品化粧水3 通販大手 プラセンタ、カンゾウ | 99 | 99 |
■化粧水4 通販中堅 緑茶 | 41 | 42 |
■化粧水5 通販中堅 プロポリス |
77 | 79 |
以上、チロシナーゼ阻害試験結果報告書3より | ||
■クジン5%+肌水(資生堂) | 91 | 95 |
■クジン5%+BG10%+肌水(資生堂) | 88 | 95 |
■クジン5%+化粧水4 | 67 | 83 |
■市販部外品化粧水6 大手 | 67 | 67 |
以上、チロシナーゼ阻害試験結果報告書5より |
生薬エキス抽出の結果判定法
抽出したエキスに美白力があるか、また市販の化粧水や原液エキスと比べるとどうなのかということを調べることに使います。
【やり方】
- 白いマッシュルームを2個用意する。
- マッシュルームをおろしがねですりおろす。
- 40℃程度の温かいお湯約400mlにすりおろしたマッシュルームを加えて数十秒かきまぜる。
- 茶漉しでマッシュルームと抽出液にわけて、抽出液を軽くかき混ぜて均一にする。
- この抽出液を透明なガラスコップに3つか4つ程度に小分けする。
- 小分けしたガラスコップのうち1つには何もいれないで、残りの分に生薬エキスなら小さじ半分、化粧水なら大さじ一杯程度加える。
- 数時間おいて色の変化を確認する。生薬エキスの効果がでているものは、色の変化はないかもしくは少ないので、何もいれていないものと比較してください。
ユキノシタやウワウルシには使えませんが、そのほかのエキスや市販の化粧品には使えますので試してみてください。チロシナーゼ阻害度が高い生薬ほどメラニンを作らせませんので、マッシュルームのチロシナーゼ酵素の活性を阻害して、色の変化がありません。
市販化粧水中のエタノール、BG、グリセリンの配合量
以下にエタノール、BG、グリセリンなどの量について調べた結果です。
エタノール | BG | グリセリン | |
部外品1 | 7.7% | 2.5% | 0.4% |
化粧水4 | 4.7% | 5.3% | 1.5% |
化粧水5 | 0.1% | 11.0% | 0.1% |
部外品1の成分表示:水、エタノール、ハマメリス水、BG、アスコルビン酸グルコシド、グリチルリチン酸2K、ベタイン、クララエキス(クジンエキス)、オウゴンエキス、チンピエキス、グリセリン、水酸化K、クエン酸Na、クエン酸、メチルパラベン
美白化粧水となるので、アスコルビン酸グルコシドというビタミンC誘導体がこの化粧水の効果の主体となります。BG、ベタイン、グリセリンが保湿成分で、エタノールとBGが抗菌とさっぱり感(エタノール)を出しています。クエン酸Na、クエン酸がpH調整剤となって弱酸性を保つことで、ビタミンC誘導体と植物エキスの分解防止を行っています。
化粧水4の成分表示:水、BG、エタノール、グリセリン、温泉水、PEG-60水添ひまし油、ビタミンB6塩酸塩、ハマメリス水、緑茶エキス、メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸、フェノキシエタノール、香料
ハマメリス水、緑茶エキスがこの化粧水の主成分で引締め効果が主体です。BG、グリセリンが保湿成分です。メタリン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸がpH調整剤となり、植物エキスの分解防止を行っています。BG、エタノールに関してはフェノキシエタノールと共に抗菌もかねています。
化粧水5の成分表示:水、BG、プロポリスエキス、リン酸アスコルビルMg、グリチルリチン酸2K、アロエベラエキス-1、クエン酸Na、クエン酸、ソウハクヒエキス、シコンエキス、シソエキス、ビワ葉エキス、オレンジ果汁、レモン果汁、メリッサエキス、モモ葉エキス、カワラヨモギエキス、エタノール、グリセリン、メチルパラベン
プロポリスエキス、リン酸アスコルビルMg,グリチルリチン酸2Kがこの化粧水の主成分です。保湿はBGのみで、グリセリンも入っていますが、量が少なすぎて何かの植物エキスの溶剤として使われていたのでしょう。エキスの名前は沢山並べてありますが、チロシナーゼ阻害度からみるとほとんど入っていないことがわかります。中小企業はたくさん種類が入っていることをアピールして差別化して売らないとしょうがないので、致し方ありません。
エタノールとBGの量がいずれの化粧水も合計すると11%前後になっています。偶然とはいえ面白いですね。これらは、植物エキスの劣化防止と防腐剤の低減などを目的として配合されています。手作り化粧品においても、配合したエキスの劣化防止と防腐力向上のため、エタノールとBGは合計10%程度配合されることをお勧めします。
外部検査機関への試験依頼結果
ここではデータを掲載するにあたって、試験を検査機関に依頼した結果を掲載しています。
外部機関に依頼する理由は、データの信頼度を上げるためです。
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